式の最中、ロマンちゃんの草履が脱げて転がってしまった。慣れない着物なのでうまく屈めず、自分で履き直すことができない。すると通訳で同行していた日本人女性が、ロマンちゃんに草履を履かせてくれたのだという。「この通訳の方は、ロマンに本当に良くしてくれたんですよ」とセリーヌさん。ロマンちゃんは話している横で携帯の画面をスクロールして、その女性の写真を見せてくれた。ベテランの穏やかそうなその女性は、式の間、一人で席に座るロマンちゃんを気にかけて柔らかく見つめていたのだそうだ。
一家の好きな言葉は「旅」「桜」「愛」
さて、結婚式のあとで一家は観光を楽しんだ。初めての習字で一家が選んだ文字は、それぞれの好きな言葉で「旅」「桜」「愛」。
また、夫のジャン・フィリップさんが相撲好きなので、出発前からガイドツアーを予約して東京の相撲部屋にも訪れた。「次回は相撲の試合を観戦したいと話しているんですよ。あと、今回行けなかった富士山にも行きたいわ」。日本で何か不都合なことはなかったかと聞くと、「しいて言えば、ご飯が美味しすぎてかなり太ってしまったことかしら」とセリーヌさんが言うと、ロマンちゃんが首をブンブン振って大きくうなずいた。
筆者がセリーヌさん一家のことを知ったのは、フランスで偶然乗り合わせた乗合自動車の中だった。
田舎道を走っているときに風が吹いて一面に綿毛が飛び、「まるで桜の花びらみたいね」と筆者がつぶやくと、運転手のフランス人女性が「あなた日本人なの?私の同僚でね、桜が大好きで桜の時期に日本で結婚式を挙げるのがずっと夢だった人がいるの。今年の春、ついに彼らの夢がかなうのよ」と教えてくれた。日本から戻った頃を見計らって、さっそくセリーヌさんに問い合わせると「まあ!今、陶芸教室でちょうど娘がお皿に桜の絵を書いているところなの。不思議なご縁にびっくりしました」と取材を快諾してくれたのだ。
旅をする目的や、そこに込める思いは人それぞれたくさんある。取材をするまでは、一家に病気や死を乗り越えたバックグラウンドがあることはまったく知らなかった。セリーヌさん一家が大切な思い出の地に日本を選んでくれたことが嬉しく、また日本の文化をリスペクトしてくれるその姿に、ほんの少しだけ誇らしい気持ちになったのであった。


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