こうして作られた現代のエリート層は、表面上はボトックス注射でしわのないセルフィーをSNSに投稿する「フレンドリーな現代人」の仮面をかぶっているが、その実態は、昔の人工的な貴族と何ら変わらない強固な世襲ヒエラルキーを形成している。
しかも、昔の貴族が少なくとも表目上は「ノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)」という自制と奉仕の倫理を意識していたのに対し、現代の学歴貴族は「自らの努力と実力で地位を掴んだ」と信じ込んでいるため、下の階級に対する自責の念や義務感を一切持ち合わせていない。
アイデンティティ政治に潜む「力への意志」と特権の隠蔽
現代の新パワーエリートが自らの特権を正当化し、同時に大衆(デモス)を支配するために好んで用いる最強の武器が、「アイデンティティ政治」と「多様性・公正・包摂(DEI)」のイデオロギーである。
エリート大学のキャンパスやグローバル企業の本社ビルにおいて、「多様性」や「包摂」を唱える声は年々高まっている。一見すると、これは人種やジェンダーによる歴史的差別を是正する人道的な取り組みに見える。しかし、その本質は「階級的・構造的な格差」を完全に不可視化するための精巧な隠れ蓑(イチジクの葉)にほかならない。
エリート層が「アイデンティティ政治」を熱烈に支持するのは、それが「学歴や職種による巨大な階級格差」に一切手を触れずに済むからである。取締役会や大学の合格者に、人種やジェンダーの多様性を少しだけ確保しておけば、その制度自体が持つ過酷な排他性や、労働者階級の切り捨てという構造的暴力を正当化できるのだ。
さらに悪質なのは、このアイデンティティ政治が「異論を排斥し、大衆を抑圧するための権力ツール」として機能している点である。


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