お金が欲しいなら働こう。勉強しよう。副業しよう。人に会おう。そうすれば少なくとも自分のなかに何かは残る。宝くじは外れて終わりだ。お金と引き換えに手にするのは虚しい徒労感だ。
少しでも豊かな人生を送りたい。そう願うのであれば、宝くじに手を出してはいけない。あなたの財布も、あなたの人生の質そのものも貧しくなるばかりだ。
「働かない老後」は1200万円の損
老後くらいのんびり過ごしたい――。FIRE(経済的自立と早期リタイア)だの悠々自適だの、働かないことを人生のゴールに置く人は多い。
でも働かない老後を選ぶことによって、手にできたはずのお金をいくら取り逃すのか。控えめに計算しても1200万円は下らない。
よく言われる老後2000万円問題、4000万円問題も、前提は「65歳から先は1円も稼がない」だ。働けば、この前提はくつがえる。毎月5万5000円の赤字だとすれば、月5万5000円稼げばいいだけだ。
しかも物価が上がる時代には、「貯金」と「稼ぐ力」とでは強さがまるで違う。貯金はインフレで実質価値が目減りしていく。その一方で働いて得る賃金は物価上昇にある程度ついていける。現に最低賃金はこの10年でおよそ4割上がった。働ける体は、それ自体がインフレに強い資産なのだ。
働かないことで取り逃す額を見積もってみよう。最低賃金の全国平均は時給1121円(2025年度)。1日5時間、月に18日働くとすれば月収は約10万円。フルタイムの半分ほどの、特別なスキルもいらない働き方でこれだ。
65歳から75歳まで10年間働き続ければ約1200万円。老後に働かないという選択は、この1200万円を捨てることである。夫婦2人なら2400万円。取り逃している額は、あの老後2000万円問題をまるごと埋めてお釣りがくる大きさだ。
75歳と聞くと長い。でも数字の上ではもう普通の風景である。65〜69歳の就業率は約54%。2人に1人以上が働いている計算だ。70〜74歳でも約35%。3人に1人以上だ(いずれも2024年時点)。特別な人ではなく、ごく普通の人が老後も働く時代になっている。
働けば、年金そのものも増える。65歳以降も会社で働き、年金を受給しながら厚生年金の保険料を納める。すると「在職定時改定」という仕組みにより、納めた保険料に応じて毎年、受給額が増えていくのだ。
月収10万円程度なら、1年働くごとにその受給額は年6000円あまり増える。70歳まで5年間働いた場合(保険料を納める年齢の上限は原則70歳)、年3万円強の上乗せになる。地味に見えるが、この上乗せは死ぬまで続く。
また老後も働くことで、年金の「繰下げ受給」も選びやすくなる。繰下げ受給とは、原則65歳からの受給開始年齢を本人の意思で遅らせることができる仕組みだ。65歳から1か月遅らせるごとに受給額は0.7%増える。70歳なら42%増、75歳なら84%増。その増額率は生涯変わらない。つまり長生きすればするほど得をするのだ。
ただし繰下げ受給にはネックがある。言わずもがな、年金がない期間の生活費の工面だ。貯金だけで5年、10年としのぐのは心細い。でも、その間働いて月10万円の稼ぎがあれば話は変わる。不安は消える。繰下げ受給を選択するハードルが一気に下がるわけだ。働いて稼ぐ。年金は待って増やす。二重の得である。
ここまではお金の話だ。働くことで得られる資産がもう1つある。健康だ。ある産業医から聞いた話だが、社会的な責任を負っている高齢者は、そうでない高齢者に比べて寿命が7〜8年も長いらしい。とはいえ、たいそうな役割を担う必要はない。その産業医いわく、マンションの管理組合の役員で十分だという。
アルバイトにしても同じだろう。社会的な責任を負う。シフトに穴は空けられないし、任された持ち場をこなすのは自分だ。誰かに頼りにされている。その張り合いが老化を遠ざけるのである。仕事一筋だった人が定年で辞めてリタイアしたとたん、みるみる老け込む。わたしに言わせれば、それは責任をまるごと手放した反動だ。
かつてわたしの母が「老後は地元でマンションの管理人をしたい。だからマンションを建ててくれ」と言い出したことがある。でも福岡の田舎町の賃貸物件に資産価値などないし、そもそも老後はのんびりという発想がマズい。悠々自適なんてボケ一直線である。
だから「お金が足りなくなったら俺が補塡するから、ボランティアでもやってくれ」と説得したところ、地元の学童保育の手伝いをするようになった。子どもたちから「堀江先生」と呼ばれ、宿題を見てくれと引っ張りだこ。毎日子どもたちと顔を合わせ、頭も体も使う。いまもボケる気配はまったくない。収入ゼロのボランティアでも、社会との接点にはこれだけの価値がある。
何もしない老後は気楽なようでいて、1200万円の稼ぎも、年金の上乗せも、生きがいもみずから捨てている。老後こそ働こう。悠々自適は老後でいちばん高くつく贅沢だ。



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