マスクにとって、アルトマンは旅の道連れだった。大惨事に備えた自分なりの手段をもつ人物だ。
2016年、アルトマンは『ザ・ニューヨーカー』誌で、長年にわたりカリフォルニア社会を取材および記録してきたジャーナリストのタッド・フレンドに対し、終末シナリオが訪れた場合に備えて、親しい友人であり指導者でもある億万長者投資家のピーター・ティールとともにニュージーランドに逃げる計画を立てていると語った。
同じ記事で、ティールはアルトマンを「文化的にとてもユダヤ的である、すなわち楽観主義者でありながら生存主義者で、物事はいつでも深刻化する可能性があるという感覚を兼ね備えている」と表現している。
2年後、アルトマンは『ブルームバーグ』に、『ザ・ニューヨーカー』での発言は冗談だったと言いながらも、非常用バッグは常備していると語った。
特に新しい人工ウイルスを心配していて、ガスマスクや抗生物質、水、電池、テント、そして銃を荷物にまとめている、と。
だが2015年2月の自身のブログではマスクに同調して、超知性が「おそらく人類の存続に対する最大の脅威である」と記し、致命的な人工ウイルスのほうが発生する可能性が高いとはいえ、それが「宇宙のすべての人間を破壊する可能性は低い」と主張した。
オープンAIにつながるアイデアの誕生
数カ月が過ぎた2015年5月、アルトマンがマスクにメールを送った。
そこでアルトマンは、「人類がAIの開発を止めることが可能かどうか、ずっと考えてきた」と書いている。「答えはほぼ間違いなく"できない"だろう。どうせ開発されることになるのなら、グーグルではない誰かが最初に実現したほうがいい」。
そこでアルトマンは、YCの愛称で呼ばれることが多いYコンビネーターが「AIのためのマンハッタン計画」をスタートさせ、「ある種の非営利組織を介してAI技術を世界にもたらす」ことを提案した。
「当然、われわれはすべての規制に従うし、規制を積極的に支持する」とも付け加え、マスクが最近主張した、政府による監視の推進にも同調した。
「一度話し合おう」とマスクは返信した。
6月、アルトマンは前より詳しい内容のメールを送った。
「ミッションは、最初の汎用AIを創造し、それを個人の力の強化のために用いること─つまり、最も安全だと思える分散型の未来を実現することにある。ざっくりと言えば、安全性こそが要件として最優先される」。
そしてアルトマンは、自分とマスクが指揮することになるガバナンス構造を提案した。
両者で取締役会に座り、さらに3名を招待する。「技術は財団が所有し、"世界の利益のために"使用する。もしそれがどのように応用されるべきかが明白でない場合は、私たち取締役会の5人が決断を下す」と説明した。
もしマスクが月に一度程度の頻度でチーム会合に参加すると約束できるなら、「最高の人材がチームに加わるだろう」とアルトマンは続けた。
もし、マスクにそこまでの時間がないのなら、代わりに公の場でこの案の支持を表明してくれたら、「それでもじゅうぶんに採用の助けになる」と。
「すべてに同意する」とマスクは答えた。

