相手を思って一歩踏み込む人がいる組織は、問題を早く見つけ、知恵を持ち寄り、変化にも強くなる。高橋さんにとってお節介は、親切というだけでなく、人と組織を動かす実践知でもある。
見返りを求めず、相手のために自分の時間を少し差し出す。
「例えば、1日の1%の15分だけお節介に使ってみてはいかがでしょうか」
お金や物ではなく、気持ちとやさしさを手渡す。得ようとするより、まず与える。そんな緩やかなつながりが増えれば、人は孤独を感じにくくなり、会社も社会も少しずつ朗らかに、そして強くなる。
お節介は、大げさな善行ではない。今日、目の前の一人に声をかけるところから始まる。
正解が一つではない時代だからこそ
こうした、見返りを求めず、まずは自分にできることから動いてみる高橋さんの姿勢は、経営の世界でも注目される考え方と重なる。あるとき高橋さんは、知人の大学教授から「あなたのお節介は、エフェクチュエーションですね」と言われたという。
エフェクチュエーションとは、米バージニア大学の経営学者サラス・サラスバシー教授が提唱した起業家の意思決定理論だ。未来を精密に予測し、計画を立ててから動く「コーゼーション」と対比されることが多いもので、先の読めない環境では、完璧な計画を待つのではなく、手元にあるものを使ってまず動き、出会いや偶然を次の機会へ変えていくという考え方。近年は日本でも、企業や自治体の実践に取り入れられている。
そう聞くと、確かに高橋さんのお節介とよく似ている。自分の経験、人脈、時間、信頼関係を手がかりに、「いま、できること」から始める。相手の困り事に寄り添い、関わる人と一緒に次の展開をつくる。
人との偶然の出会いが、思いもよらない成果につながることもある。大きな目標だけを掲げて突き進むのではなく、関係のなかで生まれる小さな行動を重ねた先に、新しい事業や価値が立ち上がるのだ。
こうしてみると、相手のために一歩踏み出すことは、単なる世話焼き、お節介では終わらない。未来を一緒につくるための「行動の種」にもなるということ。地域づくり、新規事業、福祉や教育の現場など、正解が一つではない場所ほど必要な力となる。
お節介をきっかけに人の輪が広がり、思いがけない協働が生まれ、新しい価値が育つこともある。実際、高橋さん自身もそうした経験を幾度となくしてきている。
取材を終えるころにも、高橋さんのスマートフォンには新しい連絡が届いていた。画面をのぞき込み、相手の名前を確かめると、「これはすぐ返さなくちゃ」と指を動かす。
誰かを気にかけることを、特別な善意にしない。できる人が、できるときに、できる分だけ動く。その小さな積み重ねが、孤立しやすい時代の隙間を埋めていくのかもしれない。


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