これほど優れた資源を国内に抱えているにもかかわらず、その潜在力を十分に活用できていない現状は極めてもったいないと言わざるをえない。海外から燃料を輸入し続けるだけでなく、国内に眠るエネルギー資源を掘り起こし、活用することが経済安全保障の観点から重要である。日本には豊かな河川とダム資産が存在する。その価値を再認識し、次世代のエネルギー戦略に組み込むべき時期に来ている。
地域経済圏の形成
もっとも、エネルギー開発だけを単独で進めても、エネルギーコストが高くなるだけで地域活性化にもつながらない。重要なのは地域経済圏として構想することである(図表3)。水力発電によって生み出された電力を地域内で有効利用し、産業誘致や交通網整備、防災力向上と結び付けることが求められる。例えば、安定した電力供給を前提にデータセンターや先端農業施設を誘致したり、EV公共交通を整備したりすることで、新たな雇用や所得が生まれる。また、蓄電池やEVを活用することで、災害時のレジリエンス向上にも寄与する。
エネルギー政策は単なる発電量の議論ではない。産業、交通、防災、雇用を含めた地域の将来像と一体で考える必要がある。山の国資源、とりわけ水力発電を活用した地域経済圏の形成は、日本のエネルギー安全保障を高めるだけでなく、人口減少や地域衰退という課題への有力な解決策にもなりうる。脱石油依存の実現に向けて、日本は今こそ国内資源を活用した新たな成長戦略へ踏み出すべきである。
脱石油依存は単にエネルギーの調達先を変更するだけの取り組みではない。地域経済の活性化という観点からも大きな意義を持つ。現在、日本が輸入している原油や天然ガスへの支出は、その多くが海外へ流出している。一方で、国内の再生可能エネルギーや地域資源を活用したエネルギー供給体制を構築できれば、中東地域に支払われる資金を国内で循環させることが可能となる。
特に山間地域では、人口減少や高齢化の進行により地域経済の縮小が大きな課題となっている。しかし、豊富な森林資源、水資源、未利用の土地などを活用したエネルギー事業を展開することで、新たな雇用や投資を創出できる可能性がある。木質バイオマス発電や小水力発電は、その運営や維持管理に地元事業者が関与できるため、地域内の経済循環を促進する効果も期待される。
また、エネルギー事業から得られる収益を地域インフラの維持や住民サービスの向上に活用することで、地方の持続可能性を高めることができる。海外では、水力発電から得られる収益を自治体財源に活用している事例も多く見られる。日本においても、地域資源を活用したエネルギー収益を地域に還元する仕組みの整備が重要になるだろう。
日本は地震、台風、豪雨など自然災害の多い国である。近年は気候変動の影響もあり、大規模停電や燃料供給網の寸断が発生するリスクが高まっている。経済安全保障の観点からは、海外からの燃料調達だけでなく、国内におけるエネルギー供給のレジリエンス向上も重要な課題である。大規模発電所による中央集中型のエネルギー供給システムは効率性に優れる一方で、大規模災害時には広範囲に影響が及ぶ可能性がある。そのため、地域ごとに分散型のエネルギー供給システムを整備することが求められている。
山の国資源を活用した小水力発電や木質バイオマス発電は、地域に分散して設置することが可能である。さらに、蓄電池や水素を組み合わせることで、災害時においても一定期間の電力供給を維持できる体制を構築できる。
原油危機のリスクは今後も完全になくなることはない。しかし、その影響を最小化することは可能である。輸入燃料への依存を減らし、国内資源によるエネルギー供給能力を高めることは、経済安全保障の強化だけでなく、地域経済の活性化、脱炭素社会の実現、そして次世代への持続可能な社会の継承にも貢献する。日本が目指すべきは、海外資源への依存と国内資源の活用を適切に組み合わせながら、より強靱で自立したエネルギーシステムを構築することである。


※ログイン後、コメント入力が可能です。