これは、私が指導現場で最も大事だと考えている力「自分で問いを立てて、自分で深掘りする力」そのものだ。
中学受験のガチ勢の学びが「与えられた問いを、決められた時間で処理する」形をとりやすくなってしまうのに対し、Nさんの中学時代の学びは「面白いと思った領域を、自分で掘り下げる」形をとっている。
この差は、大学受験の後半戦——とくに東大2次試験のような、記述で自分の思考を組み立てる試験——で決定的に効いてくる。
最大の資産は、自由に戦略を変えられる身軽さ
Mさんが取材の中で繰り返し口にしていた言葉が、印象に残っている。「サンクコスト」だ。
「小2から中学受験塾に入った場合、そこからサンクコストが積み上がります。例えば小学5年生で“もう中学受験やめたい”って思っても親も自分もやめる決断ができない。で、怖いのは結局中学受験から降りられないまま、次のターゲットが自動的に東大になっちゃう。人生でサンクコストが雪だるま式に膨れ上がっていくんです」
人は投下した費用と時間が大きいほど、「今ここで降りる」という合理的判断ができなくなる。中学受験でいえば、途中で「うちの子には合わないかも」と気づいても、それまでにかけた塾代・時間・親子の労力がブレーキとなって、方針転換ができない。
そしてそのまま運よく中高一貫校に入学したとしても、“時間をかける”以外の手札がないまま大学受験に突入していく。先ほど紹介したYさんがたどった道筋である。
翻って、私が高校に通わず独学で東大を目指すという、なかなか珍しい進路を選べたのは、まさに自分が“降りられる”状態にあったからだと今は思う。私は塾に通っていなかったので、方針転換したところで無駄になる月謝はなかった。進学校にいたわけでもないので、進路を変えても学校の期待を裏切ることにはならない。

