世界最強の国を率い、1年半にわたって世界のほぼ全てを威圧してきた指導者に、世界はどう反応するのか。少なくとも、その舞台がサッカーのワールドカップ(W杯)決勝なら、答えはブーイングだ。
トランプ米大統領は、カナダとメキシコと共に北中米大会を共催した国のトップとして、スペインやアルゼンチンのファンや選手を迎えた。両国は地政学では中堅国でも、サッカーでは超大国だ。
しかし、トランプ氏が防弾仕様のVIP席から姿を現し、優勝したスペイン代表に金色の優勝トロフィーを授与した後、ぎこちなく記念写真に入り込もうとすると、スタジアムはブーイングとやじに包まれた。
中指を立てるしぐさを見せた観客もいた。スペイン代表のスター選手ラミン・ヤマルは、トランプ氏との握手をためらい、まるで同氏を避けるかのような様子だった。
世論調査など各種の指標も、W杯決勝で示された空気を裏付けている。シンクタンクの米ピュー・リサーチ・センターが36カ国・地域を対象に実施した調査では、多くの国で、レーニン主義と毛沢東思想を掲げる準独裁体制の中国に対する評価が、自由世界の盟主であるはずの米国を上回った。
「世界は米国を見限りつつある」と、同センターでグローバル世論調査を統括する責任者は結論付けた。この傾向は、世界中の留学生にも当てはまる。米国の名門大学を敬遠し、他国へ進学する留学生が増えている。トランプ政権下の米国は、国際的な魅力を失いつつある。
新たな協力体制
もちろん外交の場で、ブーイングややじ、中指を立てるような行為はあり得ない。各国の首脳は別の形で意思を示している。その代表例が、トランプ氏が併合を示唆したカナダのカーニー首相だ。1月に演説した際、トランプ氏の名前を一度も口にしなかったが、カナダが受け入れた現実を世界も認識すべきだと訴えた。
米国は国際秩序の恩恵を与える存在から捕食者へと変貌したため、「ミドルパワー(中堅国)は連携しなければならない。そうでなければ食卓につく側ではなく献立に載る側になる」というのがその主張だった。
実際、中堅国は米国を介さない連携を強め、ワシントン発の新たな脅威に対抗する動きを加速させている。欧州とアジア、南米などで生まれつつある新たな枠組みには、トランプ氏、あるいは将来の米政権が恣意的に課す関税、例えばカナダに対する新たな関税などへの耐性を高めるための貿易協定も含まれる。
こうした新たな協力体制には、防衛費の増額や、防衛装備品の調達先を多様化する計画も盛り込まれている。つまり、米国製兵器への依存を減らし、他国製武器の購入を増やそうという動きだ。
前者、つまり防衛費の増額はホワイトハウスにとって歓迎すべきことだろう。トランプ政権は以前から同盟国に対し、安全保障を米国任せにせず、自国の防衛に責任を持つよう迫ってきた。
日本や韓国、ポーランド、ドイツなど多くの国がその要請に応じ、防衛体制の強化を急ピッチで進めている。もっとも、その背景には米政府からの圧力だけでなく、ロシアと中国、北朝鮮からの脅威の高まりもある。
しかし後者、すなわち米国から軍事的に自立しようという動きは、ホワイトハウスが望んでいたものではない。さらに、中堅国が米国から距離を置き、将来的に国連などの国際機関で米国に対抗して結束する可能性も、トランプ政権の意図と異なる展開だ。
こうした中で注目されるのが、コルビー米国防次官(政策担当)だ。現在のペンタゴン(米国防総省)では「高いテストステロン」を誇るようなマッチョな風潮が目立つが、その中でコルビー氏は知性と幅広い視野を備えた人物として際立っている。
中堅国の米国離れという一連の議論に反発したのか、コルビー氏はX(旧ツイッター)への投稿で各国に対し、「貴重な時間も資金も政治的資本も、そのような気晴らしに浪費すべきではない」と警告した。
カーニー氏がスピーチでトランプ氏に言及しなかったように、コルビー氏もカーニー氏や他の外国首脳の名前を挙げてはいない。しかし、中堅国同士の「連携」という考え方を退け、とりわけ最先端で最も高性能かつ高い殺傷能力を持つ兵器を米国以外から調達できるという発想を一蹴した。
さらにコルビー氏は、「米国との関与を望む動きは減るどころか『急増』している。トランプ大統領のリーダーシップで各国は米国との関与の価値を認識するだけでなく、それを当然視できなくなった」と主張しているが、この見方には疑問が残る。
反作用
もっとも一点だけ、コルビー氏の指摘は正しい。同盟国は北大西洋条約機構(NATO)やアジアにおいて、米国製装備の購入を一気にやめることはできない。
コルビー氏はドイツ空軍トップの「独自能力の構築には時間がかかる。今のわれわれにはその時間がない」という発言を引用している。ロシアの脅威は現実だ。そして、フランスとドイツは共同開発するはずだった第6世代戦闘機を巡り、機体の役割で合意できず、計画は頓挫したばかりだ。
しかし、それ以外のコルビー氏の言い分はロジックが飛躍している。まさに米国のリーダーシップや善意をもはや当然視できなくなったからこそ、中堅国は別の形で安全保障を確保し、互いに連携する必要があるのだ。
駐米ドイツ大使を務めたこともあるミュンヘン安全保障会議のイッシンガー議長は、「ブリッジ(コルビー氏の愛称)、あなたがこうしたことを公に指摘する必要があると感じているなら、それは多くの同盟国が米国への信頼を失ったことを、あなた自身が理解し始めた証拠だ。世界中に張り巡らされたパートナーと同盟国のネットワークなしに、超大国としての米国に何が残るというのか」と反論した。
トランプ氏の外交政策にある根本的な論理矛盾は、同盟国を米国の防衛から自立させたい一方で、なお米国に従属させ続けたいと考えている点だ。
バイデン前政権で国家安全保障政策を担ったレベッカ・リスナー氏は筆者に対し、「トランプ氏は両立しないことを同時に実現しようとしている。米国の同盟国を脅して防衛投資を拡大させながら、米国への依存と服従を維持しようとしている。しかし世界はそのようには動かない」と述べた。
世界が実際に動いている仕組みはむしろニュートンの第3法則、つまり作用・反作用の法則だ。トランプ氏は政権1期目の大半と2期目の全期間を通じて、米国の伝統的な同盟国や友好国を侮辱し、脅し、あるいは屈辱を与え続けてきた(穏健さで知られるコルビー氏でさえ、よりによってローマ教皇庁を相手に強硬な姿勢を示した)。
その結果、それらの国々は自国の長期的な安全と尊厳を守るため、「米国後の時代」を見据えた将来像の構築に動き始めている。その道のりは長く険しいだろうが、各国がその歩みを止めることはない。
(アンドレアス・クルス氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、米国の外交と安全保障、地政学を担当しています。以前はハンデルスブラット・グローバルの編集長を務め、エコノミスト誌に執筆していた経歴もあります。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)
原題:Middle Powers Will Keep Ganging Up Against the US: Andreas Kluth (抜粋)
More stories like this are available on bloomberg.com
著者:Andreas Kluth

