――実際に、渡邉をトップにした犯罪組織は、どのように運営されていたのでしょうか。
栗田:冒頭でもお話しした通りですが、わかりやすく言えば「テレアポの会社」に似ているのかなと。テレアポを見れば、本部にマネージャーのようなセンター長がいて、各営業部署には社員の管理指導を行うリーダーがいて、その下にオペレーターがいる。
特殊詐欺集団も構造としては近く、小島や藤田のような幹部が、人事や総務・経理を担い、営業所にあたる「箱」と呼ばれる拠点と連携する。それを受け継いだ各拠点の「箱長」が、そこで従事するかけ子に伝えていく。かけ子の中にも階層があり、警察官などを装って電話をかける「1線」、口座の暗証番号や個人情報を引き出す「2線」、現金の引き出しを指示する「3線」と階層が分かれていた。
こうした企業さながらの体制に加え、就業規則やマニュアル、詐欺のロールプレイングまで徹底させることで、渡邉は現場に介入しなくても運営が回っていた。小島は「渡邉をトップとした箱が時期により3~5つあったうち、ひとつはフランチャイズのような存在だった」と話しており、それだけ犯罪組織の収益も膨らんでいく土壌が出来ていた。
元締めである渡邉には、全体の30~40%ほどの金額が入ってきたとされ、現地では常軌を逸した暮らしを送っていました。BMWシリーズなどの外車を乗り回し、カジノでは1日2億円近くつぎ込み、1泊160万円のスイートルームに宿泊していたそうです。
組織を破滅に追い込んだ“女フィクサー”
――組織も絶頂を迎えている中で、そこから翳りが見え始めたのはなぜでしょうか。
栗田:グループの命運は、渡邉と偽装結婚していた、ミカというフィリピン人女性が握っていたとされています。
ミカは現地の警察や政治家、入国管理局にも強いコネクションを持っていたとされ、フィクサー的な立ち位置で組織を支えていました。渡邉はミカを通じて、政治家に賄賂を送って詐欺行為を黙認してもらったり、詐欺拠点の不動産をミカ名義で契約したり、帰国するメンバーのビザを手配してもらったりと、事あるごとに彼女を頼っていました。
その一環として、渡邉は詐欺拠点が摘発された際、拘束されたメンバーを釈放するため、ミカに保釈金を渡して現地当局との交渉を託していました。ただ次第に、拠点を移しても摘発が相次ぎ、そのたびにミカは数千万から億単位の保釈金を無心するようになる。いわばパイプとして機能していたミカに、裏切られる形でカモにされていたのです。
渡邉ら幹部がビクータン収容所(フィリピンの外国人収容施設)に拘束されていた頃には、ミカからの連絡は滞り、そのことが広域強盗事件に発展する契機にもなりました。

