功利主義、現実主義に徹して
イデオロギーを超えたエコノミスト

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日本の立ち位置を探る国際的視野とその育成

元富士電機会長
加藤丈夫
Takeo Kato
2004年まで富士電機会長・相談役。2000年から9年間、開成学園理事長を務め教育にも造詣が深い。現在、独立行政法人国立公文書館長

山﨑●現実に立脚した経済観とともに、湛山は、世界経済は一体として組織されるべきと、強く主張しています。この考え方には、日蓮宗にとどまらず、キリスト教への理解も深めていた湛山の宗教観に基づく人類愛の影響も感じます。

加藤●湛山には、宗教家と政治・経済人の二面性があります。政治・経済人としての湛山にも、常に世界を見つめ、その中で日本の相対的実力を測りながら立ち位置を探るセンスを感じます。湛山が嫌ったのは、国際連盟脱退のような日本の孤立でした。戦後日本は、孤立を避け、米国中心の経済・軍事ブロックに加わってきましたが、一方で、湛山はブロックを異にする中国との関係も構築しようと、国交回復前の1959年に訪中して周恩来と対談しています。この際に見せた、経済的功利主義に徹し、イデオロギー対立を乗り越え、人間的関係を構築する発想、行動も見事だと思います。

――開成中学・高校を運営する開成学園の理事長・学園長を2000年から9年間務めた加藤さんから見て、優れた国際的な視野を養うには、どんな教育が必要でしょうか。

加藤●いま開成学園の校長は「開成の生徒は高校卒業時の能力は世界一だが、大学入学後にのんびりしていると成長が止まってしまう」と心配しています。そこで若いうちに海外に行くよう勧めていますが、新しい環境で多くの人と切磋琢磨し合うことが大切です。

山﨑●立正大学では、留学生の送り出し・受け入れ事業や、オール・イングリッシュ・プログラムなどのグローバル化プログラムを拡充しています。湛山イズムを継承する大学として、今の冷え込んだ東アジア情勢の中でも偏狭を排してリアルな人間関係を築けるような、本学ならではのグローバル人材を育てたいと考えています。

鉄は熱いうちに打て!倫理観養成に期待

――立正大学は1872(明治5)年に創立され、2022年の150周年を目指しています。

立正大学学長
山﨑和海
Kazumi Yamazaki
専門は経営情報学、情報システム学、経営情報教育、教育と情報化。2010年より現職

山﨑●湛山が掲げた、「真実、正義、和平」の建学の精神を軸に、輩出してきた10万人以上の同窓生を結集したいと考えています。

加藤●OBと現役の教職員・学生が交流をもって、建学の理念を共有し、受け継いでいくことに、私学の存在価値があると考えています。

山﨑●立正大学OBには、8000メートル峰全14座登頂を果たした日本人初の「14サミッター」の竹内洋岳氏や、限界集落を蘇らせたスーパー公務員として知られる石川県羽咋市職員、日蓮宗僧侶の高野誠鮮氏らがいます。ともに客員教授ですが、竹内さんには、集中講座「モラりす竹内塾」を主宰してもらっています。

加藤●成功している人の回顧談を聞くと、大学での恩師との出会いが非常に重要だとわかります。大学は、先生と個人的にふれあえる機会をできるだけ用意すべきです。

山﨑●立正大学では、経営学部などは2年次からゼミを必修科目にしています。さらに、1年次にも少人数クラスを設け、湛山の建学の精神のベースにある倫理、教養を身に付けてもらおうと取り組んでいます。

加藤●倫理観や正義感は、学校で身に付けておくべきものです。経済界では倫理的に残念なことが起きていますが、社会に出てから、これらを学ぶことは、逆に難しくなるでしょう。鉄は熱いうちに打て、ということです。立正大学の取り組みに期待しています。