衛星アンテナは位置情報や時刻情報など豊富なセンサーデータを持つ。これらを活用すれば、IP接続の提供にとどまらず高精度測位やドローンの飛行制御といったアプリケーションまで広げられる。SESの回線では帯域保証にも対応しており、建機の遠隔操縦のように通信の途切れが許されない用途で強みが生きる。全国108カ所に展開するサービス拠点も、海外の衛星事業者にはない武器だ。
2027年に船舶・建機から、2035年には自動車へ
シャープは2027年にまずSES向けの中軌道アンテナ端末を発売する。低軌道向けや複数の軌道に対応する端末、ドローン・車載向けの超小型端末も開発しており、計4機種を揃える計画だ。
事業の立ち上げは段階的に進める。まず2027年に建機や船舶、災害時の通信確保といったニッチ市場から参入する。なかでも船舶は需要が強い。遠洋漁業では洋上でインターネットを使えないことが乗組員の確保を難しくしており、衛星通信で家族との連絡や動画視聴ができれば採用にもプラスに働くという。
2030年にはドローンなどへ用途を広げ、2035年には自動車への搭載が進めば市場は一気に拡大するとみる。小林氏によれば自動車メーカーからの引き合いはすでにある。自動車は開発に時間がかかるため「2035年でもそんなに遠い未来ではない」との認識だ。
もっとも、標準化はもろ刃の剣でもある。規格が統一されれば参入障壁は下がり、スマートフォンと同じ価格競争が起きうる。現時点で衛星通信用のフラットパネルアンテナを製造できるのはシャープやAmazonなど数社に限られるが、チップメーカーが汎用部品を量産し始めれば状況は変わる。小林氏は「標準化とともに常に先行し続ける」と語り、標準化の推進と製品開発を同時に進めることで技術的優位を保つ方針を示した。
SESとのパートナーシップは独占契約ではない。SES側は発表会で「preferred(優先的な)パートナーだがexclusive(独占的)ではない」と説明した。シャープも将来的には他の衛星オペレーターとの連携を視野に入れる。シャープの中期経営計画には衛星通信の売上目標がすでに組み込まれており、小林氏は「そんな小さい数字ではない」と話した。

