そこで行ってほしいのが、データの中から、身近なよく知っている人を一人見つけるという置き換えの作業です。あなたの知っている「あの人」に置き換えてみましょう。「仕事が忙しくて自炊ができない弟」や「最近健康を気にしてジムに通い始めた同僚の佐藤さん」といった感じでOKです。すると、ターゲットのリアルな日常が見えてきます。「佐藤さんなら、平日の夜は疲れて、手の込んだ食事はつくらないはず。でも、週末にはちょっといいものを食べて、自分を労わりたいだろう」といった具合です。
特定の一人を思い浮かべることで、言葉のトーンや売り場の選び方、パッケージのデザインに至るまで、具体的なイメージが湧きやすくなります。手元に詳細な調査データがなくても、問題ありません。そんなときは、あなたが丹精込めてつくったブランドや商品を、誰かに贈るプレゼントだと考えてみましょう。「誰を思い浮かべてつくりましたか」「どんなときに使ってもらいたいですか」と、自分の心に問いかけてみてください。誰に使ってもらえると嬉しいか、という観点でターゲットを思い浮かべてみましょう。
よく知られているあの手法はもはや古い
ターゲット像を描くときに使う「ペルソナ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。マーケティングの現場で長く使われてきた方法で、「都心から1時間ほどの場所に住む4人家族。夫は休日にカフェでゆっくりコーヒーを飲むのが好きで……」というように、典型的なユーザー像を細かく描いていきます。
ただ、第一線の現場では、企画の初期段階からこれを精密につくり込むということは減っています。つくり込みすぎて架空の人物になってしまったり、現実には少ないペルソナに似た人物を探し続けてしまったりといった問題が起きてきたからです。せっかく時間をかけてつくり込んだペルソナが、実際のターゲットとかけ離れてしまい、役に立たなくなっては元も子もありません。
そこで使われ始めたのが"観察"によるアプローチ方法です。売り場にくる人、過去に商品を買ったことがある人、競合の商品だけを使い続ける人……世の中には、一人の人物像に収まりきらない人が大勢います。その中からたった一人を選び、徹底的に観察する。「この人には、こう刺さるはずだ」という仮説を立て、小さく試し、反応を見ながら修正する。この繰り返しが、現実にヒットするものをつくり上げていくのです。
大切なのは、ブランドを世の中に出したときに「自分のための商品だ」と思ってもらえるように、ターゲットへの理解度を高めることです。そのためにも、どこにもいない架空の人物をつくるより、顔が見える相手を想像するほうがずっとリアルで、共感もしやすいはずです。


