かつては「親の教え」という補助輪で走っていた子どもが、中学生以降、自らの「遺伝的エンジン」で走り出す。つまり、親の教育が失敗したのではなく、子どもが生物学的に正しく、自分自身の人生を歩み始めたのだといえるでしょう。
家庭環境や親の教育方針といった「共有環境」が知能に与える影響は、大人になるにつれて「ほぼゼロ」に近づきます。多くの親が信じている「環境による底上げ」は、実は子どもが本来持っていた遺伝的素質を一時的に補強しているにすぎない可能性が高いのです。
人間は“形状記憶合金”、「教え込む人」から「環境のデザイナー」へ
「遺伝も環境も同じくらい重要だということは、双子の研究でもわかってきています。家庭環境の豊かさが学校の成績や進学先に影響するという研究を否定するわけではありません」と安藤氏は言います。
しかし、それ以前に「すべては遺伝子の影響を受けている」という認識を持つべきだと説き、人間を「形状記憶合金」に例えてこう説明します。
「子どもが小さい頃、親が無理に特定の型にハメようとすれば、子どもはその環境に合わせて形を変えます。しかし、それは『本来の形』ではありません。中学生や高校生になり、親のコントロールを離れた瞬間、子どもの脳は本来の設計図(遺伝的素質)に基づいた形へと戻ろうとします」
環境の影響は、まさに「今、ここ」にしか効かないのです。「努力すれば何にでもなれる」という言葉は一見ポジティブですが、その裏には「できないのは本人の努力不足か親の責任」という呪縛があります。
安藤氏は「教育とは、粘土を捏ねて作品を作ることではなく、その子が本来持っている『形状』が最も美しく発現するよう、適切な環境を与えることだ」とし、現状の学校教育についても疑問を投げかけます。
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【科学は私たちを自由にする】

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