これらの客観的なデータからは、イラン側がネットワークの接続性やサイバー攻撃による無言の圧力を、戦局や交渉の進捗に応じて行使しようとする思惑が透けて見える。
逆に言えば、物理的な戦闘が一旦収束したあとも、その後の事態の推移次第で、非物理的な手段による「見えない戦線」が長期にわたって各国に属するサイバー空間に影響を与え続ける可能性を示唆しているとも言えるだろう。
サイバー攻撃は“平穏な日常生活”そのものを標的に
日本への影響はどうだろう。Akamaiでは、今のところ今回の中東での衝突に直接結びつくと考えられる日本の企業への攻撃の際立った兆候を観測していない。社会的にも大きなインシデントは発生していないようだ。
むしろ注意しなければならないのは、アメリカのシステム化されたハイブリッド戦の効果を目の当たりにした、中国、ロシアの今後の戦略への影響だろう。
とくに中国の台湾有事を想定したシナリオでは、周辺諸国の軍事的結束を招きかねない物理的な破壊行為ではなく、台湾付近での海上臨検や税関検査といった行政的な手続きによる締め付けに要注意だ。
また、サイバー攻撃による医療や運輸、エネルギー、通信などの重要インフラへの攻撃による社会的な混乱と世論の誘導から事実上の戦争行為をスタートさせることもありうる。
そして、その混乱が一線を越えたとき、物理的な戦闘へと事態が一気にエスカレートする可能性が指摘されている。これらの矛先が台湾だけではなく、アメリカと同盟関係にある日本にも向いていることは疑う余地がないだろう。
今後のサイバー攻撃に、AIが用いられるリスクも見逃せない。AIの強みは、脆弱性の探索や防御の仕組みや突破するための回避パターンを試す、といった人間には気の遠くなる作業を、”マシンスピード”で自動的かつ網羅的に繰り返すことで、システムの弱点を発見できる点だ。
防御側でもそのスピードに適応するためには、積極的にAI技術を投入し、脆弱性や欠陥を攻撃側より早く発見したり、攻撃の試行を迅速に可視化したりすることで、弱点を補強し予防策を講じる取り組みが欠かせない。
中東での衝突が証明した通り、現代の “見えない戦線” は物理的な国境を越えてデジタル化されたインフラやそれを基盤とする “平穏な日常生活”そのものを標的にしている。
事態を戦争にエスカレートさせないための備えの強化が、わが国にとっても喫緊の課題であることは間違いない。


