スティーヴンの考えによると、人間は寝ているあいだだけではなく、起きているあいだにも「回復体験」や「回復環境」によって、選択的注意を効率よく休ませたり補充したりできる。カプラン夫妻は、自然の風景を眺めるという刺激には、強烈に魅了する刺激とは異なる特徴があるはずだと考えはじめた。たとえば、風にそよぐ葉やせせらぎの音は、夫妻が「穏やかな魅了」(ソフト・ファシネーション)と呼ぶ感覚を引き起こす。
穏やかに魅了する刺激に、私たちは興味を引かれるものの、「強烈な魅了」(ハード・ファシネーション)を引き起こす刺激とは異なり、選択的注意の資源を奪い尽くされることがない。自然のなかですごせば、受動的注意は活発に動くが、選択的注意には大きな負担をかけずにすむ。だから自然のなかですごせば、貴重な選択的注意の資源を回復させたり、補充したりできるはずだ。
日常生活に「自然の処方箋」を
私の研究では、自然のなかでたった50分間すごしただけで、そのあとは認知機能が20%向上することがわかっている。向上した状態が1日程度続くものと仮定すると、週5日の労働や勉強を4日間でこなせるに等しいレベルまで選択的注意を回復できるはずだ。
さらにおもしろいのは、選択的注意が恩恵を得るためには、自然が好きである必要はないということだ。自然は、あなたがどれだけ楽しんでいようと、自然環境のすべてが気に入らないとしても、認知機能を高めてくれる。恩恵を受けるためには、このうえなく美しい秋の日に散歩する必要があるわけではない。
こんど、集中力が続かなくなったり、新しいアイデアが浮かんだりしたら――少し気が滅入ったときにも――自然のなかを50分ほど散歩してみよう。そこまで時間を割けなければ、20分ほどでもいい。身近に自然がある場合は、木立のなかや水辺を歩いてみよう。本物の自然のなかに身を置くことができない場合は、できるだけ近い疑似体験をしてみよう。窓から外を眺めるだけでもいいし、自然のなかを散策するオンラインの動画や樹木の静止画像を見るだけでもいい。
(翻訳:栗木さつき)
