興味深いのは、リプロダクティブ・ヘルス法の施行後も避妊の普及がほとんど進んでいないとの調査結果だ。それでも出生数が減少しているのは、若者の性行為そのものが減っている可能性が高いことを示唆する。
教授は、インターネットやSNSの普及による生活様式の変化が影響しているとの見方を示した。複数の調査でフィリピン人のネットやSNS使用時間の長さは世界トップクラスという結果が出ている。若者らはセックス以上に熱中するものを発見したということだろう。
前回取材した12年にフィリピンで生まれた新生児は約179万人だったが、24年は約136万人に減った。70万人を割り込んだ日本からすれば、まだまだ大きな数字だが、それでも相当なスピードで減っていることに違いはない。
日本のように一度下がった出生率は大きく戻らない
ナティビダド名誉教授は「一度下がった出生率が大きく戻らないことは日本や韓国を見てもわかる。多額の予算をつぎ込んでも少子化を逆転させた例は歴史上ない」と指摘する。
国連によると、日本の年齢中央値50.4歳に対してフィリピンは25.7歳。半分である。街角でも老人が目立つ日本に比べ、若者の多さは歴然としている。マニラのスラム街を歩けば今も子どもがうじゃうじゃと押し寄せる。それでも首都圏の高層コンドミニアムでは4人も5人も子どもがいる家庭はまれだ。
出生率の低下は悪いことばかりではない。子どもの数が減れば、教育や医療により多くの資源を振り向けることができる。しかし生産年齢人口が従属人口を上回る「人口ボーナス」期が長く続くとみられるフィリピンがその恩恵を享受するには、その間に教育の充実と雇用創出や産業育成を整えることが欠かせない。
しかし、現状では海外出稼ぎに依存する構造が定着し、人材を育てても国外に流出するという課題が残る。
かつて例外だった国はいま、他のアジア諸国と同じ道を歩み始めた。それでも今のところは家族が何より大事で、子どもや年長者を大切にする文化が大きく変化したようには見えない。ナティビダド名誉教授が昨年日本旅行をした際に同行した家族は総勢17人だったという。
今後、家族の人数が減ることで人々の生き方やこうしたフィリピンの文化は変わるだろうか。私は興味津々である。
