そのシーンは、中年男と若い女性がどうでもいい会話をしている。中年男の右手には、刃渡りの長い鋭利な出刃包丁がある。しかし、女性はなぜか一切、包丁には言及しない。そのまま他愛もない会話が続くが、突然中年男は女性の腹に包丁を突き立てる。
そんなシーンを観た観客は、落ち着くことができない。その感じをやりたかったんです。
「日常に潜む狂気」を描く
ーー青天の霹靂のような驚きや衝撃を観客に与えることが、そのシーンの目的になるのでしょうか。
ありきたりな言葉で言えば「日常に潜む狂気」です。何でもないふつうの生活のなかにものすごい狂気が潜んでいて、「なんだこの世界は」という誰も見たことがないような世界観を観客に提示したい欲求があります。
脚本家としては、突然それまでの状況とは真逆のことが起きたりすることで、物語の“当たり前”に風穴を開けたいと常に考えています。
ーー観客の感情を動かす物語につながりそうです。
人間の感情って、笑っているのになぜか涙が出てきたり、怒っているのに不思議と笑っちゃったり、言葉で説明できない曖昧な部分があって。僕はもともとそこに興味があります。
だから、コメディもシリアスも自分のなかでは分けていなくて、同じ地平です。今回の物語もそれに近いですかね。
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【「神の存在」「神の立ち位置」】
