最高の尊敬に値する
哲学を持った偉大な政治家
石橋書簡が示す哲学その気骨を継承する
――1956年、湛山は自民党総裁選で岸信介を破り首相の座に就きます。
渡部●私はその時、会場の東京・産経ホールにいました。壇上にいた選挙管理委員の石田博英さん(石橋内閣官房長官)が手を挙げた時の感激は、いまも忘れられません。しかし、残念なことに間もなく体調を崩してしまう。見舞いに訪れた野党社会党の浅沼稲次郎書記長までが「予算は通してやるから辞めるな」と言ってくれたが、2カ月の静養が必要という診断を受け、辞職しました。「首相としてもっとも重要なる予算審議に一日も出席できないことがあきらかになりました以上は首相としての進退を決すべきだと考えました。私の政治的良心に従います」と述べた「石橋書簡」は、政治家はかくあるべきという哲学を示しています。現国会議員に、素晴らしい哲学者だった先輩の存在を覚えていて欲しいと思います。
山﨑●湛山先生は、日蓮宗僧侶の家に生まれ、渡部さんと同じ、早稲田大学文学部哲学科で、ジョン・デューイの弟子にあたる田中王堂教授のプラグマティズム哲学の影響を受けています。
立正大学は、単なるエコノミストではなく、哲学を持った湛山先生の気骨を継承したい。それが、利他や慈悲の心といった豊かな人間性の土台の上に専門性を築く〈「モラリスト×エキスパート」を育む。〉という教育目標なのです。
崩れた関係性を修復するケアロジーの必要性
――これからの時代を担う若者を育てるために大学に求められる教育は何だと思いますか。
渡部●古いと思われるかもしれませんが、知識だけではなく、家族、故郷、母校、国を想う心の教育が今、求められていると思います。
山﨑●母校への思いは、そこに集まる教員、友人、仲間らとの関係性によって形成されますが、以前に比べて希薄化が進んでいることは否定できません。このことは、人間、社会、地球環境の関係性の崩壊によって生じる現代社会の諸問題にも通じています。立正大学では、社会経済、世界に対する広い視野を持ち続けた湛山先生にならって全体像を見渡し、各要素の間の関係性を理解・修復し、社会・環境問題の解決につなげる「ケアロジー(ケア学)」を探究しています。
――渡部さんが湛山から学んだことは何でしょうか。
渡部●私は、日中国交正常化の前年の1971年に訪中して、周恩来首相に「次の田中内閣ができたら国交正常化をしましょう」という話をしましたが、石橋先生は、それ以前から中国との関係に見識を持っていました。その先見性のある見識と清廉さを備えた政治哲学の高邁さについては、他の政治家とは比べようもありません。私は、田中角栄を親父、竹下登を兄貴と仰いできましたが、最も尊敬に値する政治家は、と聞かれれば、石橋先生をおいて他にいないのです。