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「右派も左派も"脳内の敵"を叩いているだけ」小泉悠×辻愛沙子対談(後編)日本人が無自覚にハマる"言論の軍拡競争"とは

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小泉氏と辻氏の対談の様子
若い世代が抱く「情報戦」の素朴な疑問について、辻愛沙子氏と小泉悠氏が語り合った(撮影:今井康一)
  • 小泉 悠 東京大学先端科学技術研究センター 准教授
  • 辻 愛沙子 arca代表取締役/クリエイティブディレクター
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小泉:僕が専門にしているロシアの場合、2000年代くらいから「情報戦が武器になりうる」という議論が軍内部で出てきていました。ただ当初は、リベラルな価値観の普及はロシアの伝統的な価値観を毀損して弱体化させるためのアメリカの陰謀だという、被害者意識からのスタートだったんです。

ソ連崩壊後に情報機関出身者たちがそういうことを言い始めて、じわっと社会に広がっていった。政権としても都合の悪いことはアメリカの陰謀だということにしておけるのはありがたいので、そこに乗ったのですね。

:そこからどう変わっていったのですか?

小泉:明確に兵器として使われたのが、14年のクリミア半島占拠です。この時、ロシアは非常に鮮やかにやりました。現地のテレビ局やインターネットプロバイダーを真っ先に占拠し、ロシアに都合のいい情報だけを流し続けたんです。そして「皆さん、危ないから住民投票してロシアに併合しましょうね」と、わずか3週間で併合まで持っていってしまった。

この成功体験から、ロシア軍の中では情報戦は使えるという議論が一気に盛り上がりました。

:最近、日本でもロシア系の資本が背後にあるアカウントがSNSに介入しているといった記事が出たりしていますね。

小泉:そういうニュースで騒いでいる時点で、これまでの日本は本当に平和だったんだと思います。日本語という言語の壁が高かったため、他国からの情報工作を受けにくかったんです。しかし、AIの翻訳技術などの発達によってその壁が圧倒的に下がり、不自然ではない日本語の偽情報を自動投稿プログラムなどで大量に流せるようになりました。

台湾に行けば、振り込め詐欺に気をつけるのと同じレベルで「中国の偽情報に気をつけましょう」というポスターが貼ってあります。これまでの日本は例外的に穏やかな場所にいただけです。今、我々を取り巻く情報環境は確実に侵食され、うっすらと認知戦に暴露されつつある段階だと思います。

偽情報があふれるSNS社会に必要な構え

:私も同世代の声をよく聞きますが、安全保障の議論をしようにも「何が本当の情報なのか分からない」という声が多いんです。X(旧Twitter)などで戦争に関する動画が流れてきても、その動画自体がディープフェイクかもしれないし、連なっているリプライには過激な言葉ばかり並んでいる。そうすると、この情報をもとに考えたり議論していいのかすら分からない。そういう時、私たちはどのような視点を持てばいいのでしょうか。

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【「フェイク時代」を生き抜くための鉄則】

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