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「右派も左派も"脳内の敵"を叩いているだけ」小泉悠×辻愛沙子対談(後編)日本人が無自覚にハマる"言論の軍拡競争"とは

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小泉氏と辻氏の対談の様子
若い世代が抱く「情報戦」の素朴な疑問について、辻愛沙子氏と小泉悠氏が語り合った(撮影:今井康一)
  • 小泉 悠 東京大学先端科学技術研究センター 准教授
  • 辻 愛沙子 arca代表取締役/クリエイティブディレクター
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小泉:あの事件に対する政府の沈黙は、僕もあまりに硬直化した対応だったと思っています。あれは政府の組織的な失態というより、規律を欠いた個人の暴走によるものですから、「一部の隊員による不適切な行動であり、申し訳なかった」と一言謝罪すれば済む話なんですよ。そうした頑なな態度は、不要な摩擦を生む悪手だと思います。

ただ、知っておいていただきたいのは、ネット上の排外主義的な人たちと、安全保障の専門家や実務家は、根本的に異なるアプローチをしているということです。結論として「長距離ミサイルが必要だ」とか同じようなことを言う場合はありますが、専門家は感情でそう言っているわけではなく、「脅威の度合いに応じて、この部分を埋めないと抑止の差が埋まらない」というロジックで考えています。

辻 愛沙子(つじ あさこ)arca代表取締役/クリエイティブディレクター 社会派クリエイティブを掲げ、「思想と社会性のある事業作り」と「世界観に拘る作品作り」の2つを軸として広告から商品プロデュースまで領域を問わず手がける越境クリエイター。リアルイベント、商品企画、ブランドプロデュースまで、幅広いジャンルでクリエイティブディレクションを手がける。2019年春、女性のエンパワーメントやヘルスケアをテーマとした「Ladyknows」プロジェクトを発足。19年秋より24年3月まで、報道番組「news zero」にて水曜パートナーをレギュラーで務める。多方面にわたって、作り手と発信者の両軸で社会課題へのアプローチに挑戦している(撮影:今井康一)

:その通りだと思います。丁寧な議論が必要なテーマだからこそ、ネットの暴論と専門家の知見は分けて考えなければいけない。それなのに、前者の声ばかりが大きくなってしまっている時代なのかなと思います。

小泉:そうですね。そして、その「敵味方認定の雑さ」みたいなものって、実はみんなが抱えている問題じゃないでしょうか。排外的な人たちは中国や韓国を一括りにしますが、中国と韓国は全く別の国です。韓国はアメリカの同盟国であり、間接的に日本の友好国でもあります。さらに彼らは、日本のリベラル層も全部「あっち側」という大きな箱に入れてしまっている。

でも逆に、リベラルの人たちから見ても、排外的な人たちも、違う理由で発言している専門家も、あるいはトランプ大統領のような無茶をする政治家も、全部「好戦的で危険な勢力」という同じ箱に入ってしまっているのではないでしょうか。結局のところ、お互いが身内で「脳内左翼」や「脳内右翼」を作り上げ、それぞれのフィルターバブルの中で相手を論破して事足れりとしてしまっているように見えます。

:自分たちの見たい世界だけを見て、相手をラベリングしていると。

小泉:相手のことを「無知だからあんなことを言っている」か、「誰かに操られている手先だからだ」とレッテルを貼り合っている。でも、僕たちは無知ではないし、外国の手先でもありません。それぞれの立場にちゃんと背景があり、理路がある。そのことを確認し合った上でなければ、本来の政策論はできないはずです。

ロシアの情報戦とクリミア占領の「鮮やかさ」

:そうした「敵味方」の分断がSNS上で意図的に煽られている部分もあると感じます。実際に一国の戦略として、情報戦や認知戦はどのくらい活用されているものなのでしょうか。

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【ロシアが仕掛けた「見えない戦争」】

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