しかし、旭さんはまだ、遠州綿紬の本当のポテンシャルを知らなかった。2回目の転機となったのは、誰もが知る企業との出会いから始まった。
障子もソファも。星野リゾートからの依頼
2009年、旭さんは浜松市西部・舘山寺温泉にある旅館「花乃井」の代表と知り合い、遠州綿紬で何かできないかと話し合っていた。しかしその矢先に、花乃井は星野リゾートによる運営が決まる。
進みかけていたコラボの話は、いったん白紙に戻った……はずだった。
「ちょっとご相談があるのですが」
電話は、星野リゾートの岡本真吾氏からだった。
花乃井を改修して生まれる新しい旅館の名は「界 遠州」。岡本氏は、その総支配人だった。
「総支配人の岡本さんから連絡があって、新しく作る旅館で、遠州綿紬と何かコラボできないかって言うんですよ。もう、1人じゃ絶対無理だと思って、すぐにブランディングパートナーの外山さんに連絡して、『不安だから一緒に来てください!』って泣きついたんです」
岡本氏の相談はこうだった。「界」ブランドでは、その土地と結びついたおもてなしをしていきたい。今回はお茶をテーマにしているが、遠州綿紬でも何かできないか――。
「そこで、まずは1部屋だけ、ご当地部屋『遠州つむぎの間』として、遠州綿紬をテーマに部屋作りをさせていただきました。それが好評で、最終的には全館コーディネートさせていただいたんです」
ところが、岡本総支配人からの要望は、どんどんレベルアップしていく。
「障子をはがすので、代わりに遠州綿紬を張ってくれないか?」「ソファの生地を遠州綿紬に張り替えてほしい」さらに、「浜名湖をイメージしたテーブルを作ってほしい」という要望も……。
こんな要求に自分たちだけで応えるなんて到底できなかった。そこで、それぞれの職人に協力を仰いでみると、みんなおもしろがって協力してくれた。桃太郎のきび団子のように、遠州綿紬が強い仲間を集めてくれたのだ。
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【善意が招いた2年の地獄】
