「帰ってきてみたら、シーツ事業部は非常に厳しい経営状況になっていました。いまからここに入るのは現実的じゃない。そこで目を向けたのが、祖父の時代にメインで扱っていた遠州綿紬でした」
遠州綿紬は事業の隅に追いやられ、祖父の古い友人がたった1人で扱っていた。2005年、旭さんは遠州綿紬を楽天市場で販売する通販事業に携わることになる。
「なんだこれ、めっちゃかっこいい!」
そのきっかけはあるとき、取引先の機屋の工房を見学に行ったことだった。
「驚きましたね。『なんだこれ、めっちゃくちゃかっこいいじゃん!』って。老夫婦2人で営んでいる小さな工房なんですが、職人としての姿勢に強く惹きつけられました」
歯車を剥き出しにした織機は、牙をかみ合わせる獣のようだ。舟形の「シャトル」が細いヨコ糸を運びながら往復するたびに、ガシャン、ガシャンと音が鳴る。老夫婦2人が、少しでも距離感を間違えたら手をかみちぎられそうな機械の前に立ち、織物と向き合っている。
「懐かしいのに新しいんです。アナログだけどかっこよく感じて。まだこんなモノ作りが残っているのかと、興奮したのを覚えています」
一方で、周囲の反応は冷ややかなものだった。
「祖父や職人たちまでも、『遠州綿紬には将来性がない』って言うんです。『これはもう古い。これで飯を食えると思うなよ』と」
祖父の時代に取引のあった800軒以上の機屋はほとんどが廃業に追い込まれ、旭さんが入社した2005年には100軒前後まで減っていた。
長年この世界にいた者にとって、遠州綿紬はすでに「終わった」商品。没落の苦い記憶と分かちがたく結びついている。
しかし若い旭さんは、その時代を知らない。むしろ、価格破壊を繰り返し個性を失った化繊の布のほうが、見飽きた古いものに思えた。
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【大幸は、もう畳むから】
