アップル創業50年の本質は何か、ジョブズが示した「疑念の階層」とAI時代に貫く"責任あるものづくり"の思想
ここからiMacを出荷するまでのわずか1年ほどの間に、ジョブズは驚くほど多視点で多様な仕事をこなす。戦略の構築といったマクロなことから、製品のディテールの提案といった超ミクロなことまで膨大な量の意思決定を行う。正直、信じられないほどの量の仕事で、毎週のようにアップルが何らかの前進をしているというニュースが漏れ伝わっていた。
それにもかかわらず、何か1つの問題を解決すると、メディアもユーザーも、「しかし、まだ〜〜がダメだ」といつまでもアップルを信頼してくれない。ジョブズは、そのことを非常に大きなフラストレーションに感じていたようで、翌年ボストンに代わってニューヨークで開催されたMACWORLD EXPOの基調講演で、こうした疑念を冷静に分析した面白い視点を紹介している。
あまり知られていない名講演で、今日の経営者にもインスピレーションを与えてくれそうなので紹介したい。
まずは「生存」から、ジョブズの「疑念の階層」
1998年夏のMACWORLD EXPO基調講演では、ジョブズが考えた「疑念の階層」という考えを背骨に講演が行われた。ヒントにしたのはアメリカの心理学者エイブラハム・マズローの「欲求の階層」モデルである。人の欲求は生理、安全、社会、承認、自己実現の5つの階層からなり、ある層が満たされると人はその欲求を忘れ、次の層の欲求を求め始めるという理論だ(心理学界隈では賛否両論がある)。
ジョブズは、ユーザーやメディアがアップルに抱く疑念もこれと同じように段階的にフェーズが移り変わることに気づき、これを「疑念の階層」というモデルに仕立てた。そして驚くべきことに、この枠組みを念頭に置きながら、各層の疑念を一つずつ順番に解消していく形でカムバックの1年間の仕事を組み立てた。
「疑念の階層」、まず満たす必要がある最下層は「生存」だ。会社が存続できない状態では、どんなに良い製品を出しても人々は安心してそれを買うことができない。
ジョブズが最初に手をつけたのは取締役会と経営陣の刷新だった。ここから先にある前代未聞の戦略を進める上で、それまでの古い考えを持った取締役会や経営陣は邪魔でしかなかった。



















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