即戦力育成か、人間力の涵養か? ニデック永守氏が京都先端科学大学で問われる「長期の実学」と新たな「良心」

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神戸大学名誉教授・加護野忠男氏が提唱する「市民精神」「企業精神」「営利精神」という3つの経営精神の枠組みで見れば、永守氏の光と影が鮮明に浮かび上がる。

大きな志で未知の価値創造に挑む企業精神において、永守氏は卓越していた。しかし営利精神、すなわち利益を強く意識し合理的判断で組織を持続させる力は、本来経営の健全性を担保するものであるはずだ。それが変容し、会計不正へと走ってしまった。

「短期の実学」と「長期の実学」

ここで、慶応義塾の福澤氏が掲げた実学に立ち返ってみたい。それは職業訓練ではなく、人が社会の中で自立して生きるための独立自尊の精神的基盤を作ることが本質だった。食べていく技術を身につける「短期の実学」と、人生を通じて何のために働き、何のために生きるかを問い続ける「長期の実学」の両輪から成る。

この両輪を回転させようとする動きがAI(人工知能)分野で見られる。3月17日、東京大学とNECが、人とAIが豊かに共生する信頼社会の実現に向けて産学協創協定を締結し、「NEC東大ラボ」(東京都文京区)を設置すると発表した。

いずれAIは、日常生活や仕事だけでなく、安全保障や社会の基盤を支える領域にまで深く入り込むだろう。だからこそ問われるのは、技術の性能だけでなく、人がどう受け止め、どう使うかである。

NEC東大ラボは、その課題に向き合うための場だ。AI技術の研究開発にとどまらず、法制度や倫理などの現実の問題にも取り組み、人とAIが共に成り立つ社会の形を具体的に描こうとしている。

教育面でも、学生や企業の人材が現実の課題に触れながら学べる場を提供する。東大の藤井輝夫総長は「多様な知を結集し、人とAIが共生する社会の実現に貢献していきたい」と語り、NECの森田隆之CEOも「AIなしでは暮らせない時代になる。日常生活や仕事はもちろん、安全保障の分野でもAIが不可欠になる。技術だけでなく信頼や社会受容性も含めて、価値を社会に根付かせていく必要がある」と強調した。

こうした協創の取り組みは、目の前の課題を解決するだけでなく、将来にわたって人や社会がどう生きるかを問い続ける視点と重なっている。まさにこれは、「長期の実学」といえよう。

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