プーチンと歩調を合わせるロシア正教会の真意 侵攻を「聖戦」と呼び、西側を「悪魔主義」と断じるルーツはどこに?
戦争と宗教の多面的なかかわりについては、近年わが国でも盛んに論じられているところであり、主体的な役割を果たす政治的アクターとして宗教組織を分析することも重要である。
ロシア正教会は、国家への奉仕を自らの役目と心得て、受動的にこの戦争を支持しているのでは決してない。ロシア正教会は、独自の歴史観や価値観、組織的ネットワークと外交政策を有する一枚岩的ではない巨大組織である。
ロシアがこの戦争を始めた直接的な動機としては、ウクライナという緩衝地帯をNATOに編入させるわけにはいかない、という国家安全保障上の理由が第一に挙げられる。
ただし、この戦争に対して、両国政府はそれぞれに“宗教的”な動機付けを行なっている。すなわち戦争の正当性の担保である。プーチン大統領は2022年9月、ウクライナの東・南部の併合を宣言した演説において、ロシア側の言うところの「特別軍事作戦」(ウクライナに対する全面侵攻を指す)を、西側の「新植民地主義体制」に抗する戦いと位置づけた。
「新植民地主義体制」とは、「ドルの力と技術の専横により(……)世界を略奪」してきたこととされ、「人間性の完全否定、信仰や伝統的価値観の転覆、自由の抑圧」という、より形而上学的な問題とも結び付けて論じられる。この“伝統的価値観”を守るのが、ロシア正教会をはじめとする、国家に認められた伝統宗教組織なのだ。
プーチン政権と利害関係を共有する“伝統的価値観”
ロシア正教会による戦争支持は、ロシア正教会の最高位の聖職者であるモスクワ総主教キリルの発言となって端的に表れている。キリルは、この戦争をロシアとウクライナの一体性を破壊しようとする「西側」によって仕掛けられたものと主張する。
歴史上のロシアの戦いは、つねに「防衛」のためのものであり、この戦いに従軍する人びとは自らの命を祖国のために犠牲にする英雄であり、この犠牲的行為は地上で犯した罪を贖うものであると説く。
これは決してキリル一個人の見解ではない。2024年3月、「世界ロシア人民会議」は、この戦争を「聖戦」と位置づけ、ロシアは「グローバリズムの猛攻と悪魔主義に堕ちた西側から世界を守る」使命を担うものであると発表した。「世界ロシア人民会議」とは、ロシア正教会が後援する国際的社会団体で、先に挙げた文言はロシア行政府及び立法府に宛てた「要請」でもある。
ロシア正教会の内部では、反グローバリズム、反個人主義、反LGBTQ、プロライフ(人工妊娠中絶反対)、愛国主義などのキーワードを用いて“伝統的価値観”を訴える保守派が優勢にあるのが常態であり、リベラルな見解は教会組織の内部で大きな影響力をもつことはできなかった。
その点で、ロシア正教会はプーチン政権と歩調をそろえてはいるが、ロシア正教会の保守的姿勢は政治権力に対する単なるおもねりではなく、教会指導部の理念でもある。




















