「3セク鉄道」MBA取得者が経営したらどうなった? 福井県の「えちぜん鉄道」元専務が説く日本の現実

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――地方の鉄道が廃止される際には、未だにモータリゼーションにより役割を終えたという理由が語られることがあります。

えちぜん鉄道になってから、最も利用者が増えたのは通勤定期でした。福井県は1人当たりの自動車保有台数が日本一で、鉄道の交通分担率はパーソントリップ調査が行われた2005年で、当時のJRを含めても1.7%と2%にも満たない状況でした。一方で、自動車の交通分担率は76%以上にも上ります。

これを、マーケティングにおけるターゲットセグメントと考えると、鉄道には、巨大な潜在需要があるとも言えます。このことにすぐ気づいたのも見奈美さんでした。

そこで、県や沿線自治体と協力して、パークアンドライドの駐車場を各駅に整備してきました。また、駅の改修やトイレ整備、バリアフリー化にも力を入れ、ショッピングモールをベンチマークに「車利用者でも使いたくなる鉄道」を目指してきました。鉄道と車は対立する存在ではなく、補完し合う関係だと考えています。

鉄道と道路は、特性の違う交通機関です。競合関係でもありますが、選択肢があるということが個々の住民の利益につながりますし、社会全体の利益になります。しかし、現在の日本の鉄道政策の基本、つまり運賃の規制や参入に関する認可制などは、鉄道の独占の弊害を防ぐことが必要だった時代、高度成長以前のものの名残です。実際は地方の鉄道こそ、車との厳しい競争に面しているうえに、通学需要への対応など、社会的な要請にも応える必要があり、競争と協力の両立という、経営上も政策上も難しい状況にあります。このような中で、鉄道会社は利用者起点の発想に変えることが必要ですし、行政も、それは地域社会を良くすることにつながることだから、協力して取り組むという考えを持つことが必要だと感じます。

鉄道を存続させても自治体財政への悪影響はない

――現在は、金沢大学の博士後期課程で国鉄時代に廃止された路線の影響についても研究されていると聞きました。

鉄道はもともと、社会的効果を目的に整備されてきました。旧国鉄路線は全国を1つのネットワークとして機能させるためのものです。利用者の運賃だけで社会的効果を賄えなくなった結果、地方部の赤字が問題視されましたが、地域間の内部補助は本来「公共性のための仕組み」でした。

欧州では内部補助をやめ、上下分離と運営者の入札という競争を導入しました。これは、インフラ部分は公的負担を明確にし、さらに社会的効果についても社会全体で負担することを前提とした契約を行うということで、内部補助から外部補助への切り替えです。アメリカも旅客鉄道はすべて日本でいう公営企業が運営しています。また、本来の「独立採算制」というのは、公益に関し必要な支出は公的負担が前提となり、収支の均衡を図るという制度です。今の日本には欧米の視点も、独立採算制の本来の視点もないと感じます。

計量経済学の手法を用いて分析すると、1980年代後半に鉄道を廃止した地域では、平均的に出生数や高校生徒数、商業活動にマイナスの影響が出ています。一方、存続させたことで自治体の財政への悪影響は見られませんでした。鉄道は、若者の流出や教育機会と強く結びついているのです。2000年代の規制緩和による民間鉄道の廃止が進んだ時期の分析でも、ほぼ同様の結果となっています。

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