今年30周年でも「なぜ飽きない?」 累計IP総収益22兆円、世界最大IP《ポケットモンスター》を支えた、「顔の力」という戦略

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田尻氏がゲームボーイ用ソフトの企画を考えたとき、着目したのが通信ケーブルだった。「ただ対戦するだけでなく、もっと何かできるのではないか」という発想から生まれたのが「交換」というゲームの核心だ。

捕まえて(収集)、育てて(育成)、交換する(コミュニケーション)——この3つの動詞が、ポケモンのすべてを支えている。

マーケティングの言葉で言えば、これは完璧な「インサイト」(人を動かす隠れた心理)の捕捉だ。

思い返せば、人間の「集める・交換する」欲求は時代を超えて普遍的に存在してきた。切手収集、昆虫採集、トレーディングカード、手帳にびっしり貼り集めたシール——形は違っても、その根底にある心理は同じだ。

「コンプリートしたい」「珍しいものを手に入れたい」「友だちと交換して関係を深めたい」という欲求は、人間が生まれ持つ社会的本能と言ってもいい。

ポケモンは96年、この欲求を初めてデジタルゲームで完全に満たしたコンテンツだった。しかも、都市化が進んで子どもたちが昆虫採集をする場所も機会も失われていた時代に登場した。自然の中で虫を捕まえる体験がゲームの中に移植され、より安全に、より多彩に、より手軽に楽しめる形になった。

ポケモン
カードゲームも世界中が熱狂する。26年2月にイギリスのロンドンで行われた「ポケモン ヨーロッパ インターナショナル チャンピオンシップ」の様子(写真:John Keeble/Getty Images)

筆者の提唱する「インサイト思考」とは、消費者の潜在ニーズを掘り起こし、それを商品設計に落とし込むことだ。

田尻氏はまさにこれを、自分自身の少年時代の体験から直感的に実行した。そして「集める・交換する」というインサイトを「アウトサイト(見た目)」——つまり、1025種類の魅力的な顔を持つポケモンたちで完璧に可視化した。

インサイトとアウトサイトが一致したとき、商品は爆発的に売れる。ポケモンはその教科書的な事例なのだ。

人間は「5000もの顔」を識別・記憶できる

では、なぜ1025種類もいるのに混乱せず、それぞれのポケモンに「キャラクター」を感じられるのか。ここに、もう1つの脳科学的な仕組みがある。

まず、人間が顔を識別する能力の「キャパシティ」について触れておきたい。

ヨーク大学のロブ・ジェンキンス博士らが18年に発表した研究によれば、人間が「知っている顔」の数は平均約5000に達することが明らかになった(※5)。ただ、個人差は大きく、最小1000から最大1万の範囲にわたるという。ジェンキンス博士は「脳が扱える顔の数の上限はまだ見つかっていない」とも述べている。

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