今年30周年でも「なぜ飽きない?」 累計IP総収益22兆円、世界最大IP《ポケットモンスター》を支えた、「顔の力」という戦略
ポケモンを見た瞬間、私たちの脳の中で何が起きているのか。
脳科学の研究によれば、人間の脳には「紡錘状回顔領域(FFA: Fusiform Face Area)」と呼ばれる特殊な領域がある。ハーバード大学のナンシー・カンウィッシャー教授らが97年に発表した研究で、この領域が顔認識の中枢であることが初めて明確に示された(※1)。
ここで注目すべきは、近年の研究でこのFFAが「顔そのもの」だけでなく、「顔のような構造を持つもの」全般に反応することがわかってきた点だ。
大きな丸い目、上向きの口角、表情が読み取れるシンプルな構造——これらを持つキャラクターや商品パッケージを見ると、脳はそれを人の顔と同じ回路で処理するのだ。
ポケモンのキャラクター「ピカチュウ」は、まさにこの条件を完璧に満たしている。大きな目、丸いフォルム、赤いほっぺ。これは「赤ちゃんの顔」の特徴と重なり、脳が「安全・かわいい・好き」と自動判定する構造だ。
「初めて見た瞬間から好きになった」という感覚は、錯覚でも単純な好みでもなく、脳の神経回路が生み出す生理的な反応と言える。
同様の仕組みは、商品パッケージにも働く。
たとえば車を見たときに、ヘッドライトは目、グリルは口と認識してFFAが活性化するという研究が示すように、脳は「顔のような特徴を持つモノ」を人の顔と同じ回路で処理することがある(※2)。
ポケモンのキャラクターデザインが持つ「顔の力」は、脳科学的に裏づけられた現象なのだ。
プリンストン大学のアレクサンダー・トドロフ教授らが行った研究では、人は他者の顔を見てからわずか0.1秒以内に印象を決定し、その後に得た情報があっても印象の根幹は変わりにくいことが示されている(※3、4)。
ポケモンへの「一目惚れ」が30年間持続するのは、この0.1秒の蓄積の結果でもある。
「虫取り少年」が見抜いた“人間の本能”
ここで一度、ポケモン誕生の原点に立ち戻ってみたい。
ポケモンを生み出したゲームクリエイターの田尻智氏は、東京・町田市で育った「虫取り少年」だった。クワガタを捕まえ、友だちと見せ合い、交換する——その少年時代の体験がそのままポケモンの設計思想になっているという。




















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