京大在学中にデビュー"60歳漫画家の原点"。「将来はエリートになると思っていた」が、学費のために執筆。『コンクリートの船』への思いも語る
ーー昨今のSNS社会では、身の回りのことしか頭にない人たちが増えている印象があります。本作には、そんな現代社会に対するエンターテインメントを通したメッセージがあるようにも感じます。
そういうことを意識し始めたのは『ぱじ』(『週刊ヤングジャンプ』、集英社)を描いていた90年代後半です。阪神・淡路大震災やオウム事件があって社会が大きく揺れ動き、いわゆる常識や倫理観を茶化すようなカルチャーが出てきました。
正しいことや美しいこと、愛すべきことは、ことさら言い続けていないと、脆くて崩れてしまう。だから、その頃から、人生には価値があるとか、未来を諦めてはいけないなど、口にするのが恥ずかしいようなテーマを作品に込めるようになりました。
たしかに今は、社会に無関心で自己の幸せばかりを追求する人が増えているイメージはあります。そういった人たちに対して、自分の損得だけでなく、美しい建前というか、もっと社会のことを考えて、世界を気にしよう、というメッセージが伝わればいいなという気持ちはあります。
ーーこの物語をどういう人たちに届けたいですか。
作品に出てくるような、ものづくりに携わる職人さんたちにこそ読んでいただきたいです。仕事に対する倫理観のようなところは、昔と比べて現在は社会全体で少しずつ希薄になっている気もします。時代の激流にもまれながら、仕事に誇りを持って生きた職人たちの姿が届いてほしいですね。
ーーこの作品を読んだ人に、どういうことを感じたり、考えたりしてほしいですか。
大きく言うと、サバイバルの心構えです。主人公たちは、大企業のパワーに辛酸を嘗めさせられ、その後は戦争に翻弄されますが、そのなかで自分たちの技術を信じて生き残っていこうとします。明日を信じる勇気や、未来に希望を持つ強さみたいなことを感じていただければ幸いです。
漫画は“平和”だからこそ存在するもの
ーー漫画が社会で担う役割は何だと考えますか。
漫画には多様なジャンルがあり、ひとくくりで語るのは難しい。エンターテインメントにもアーティスティックな作品にも、それぞれの意義があります。
つらい思いをしている人に一時の休息を与えたり、心にゆとりがある人は情緒を楽しんだり、漫画があることで人の役に立っていたり、何らかの意味があったりします。だから、国内外で広がっています。
答えになっているかわかりませんが、大学の講義で学生たちには、漫画は社会が安定して平和だからこそ存在していることを心得ておいてほしいと話しています。それが心の真ん中にあれば、どんな表現においてもブレない。漫画家こそ、社会の誰よりも世界の平和と安全を願うべきです。



















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