京大在学中にデビュー"60歳漫画家の原点"。「将来はエリートになると思っていた」が、学費のために執筆。『コンクリートの船』への思いも語る

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コンクリートの船
『コンクリートの船』主人公の武田社長(画像:「コンクリートの船」(C)村上たかし/ビッグコミックオリジナル連載中(小学館))

ーー武田社長の姿は、特定の世代や層に向けて描いているのでしょうか。

そういうわけではありません。ただ自分が魅力的に感じる人物像を、ストーリーの真ん中に主軸としてしつらえました。

何よりも描きたかったのは、当時のさまざまな困難を乗り越えて造られたコンクリートの船です。鉄の船が残らないなか、今なおその形をとどめて現存しているわけで、コンクリート業界でも注目されています。

もともと塩田だった高砂で造られているため、酸化を進ませる塩分が混じり、コンクリートの質としては良くないのに、なぜ構造物としてここまで強固に出来上がっているかを調べたら、製造過程における品質保持と管理が執念を感じさせるほどに質が高かったことがわかりました。

それは、精神論になるほど。当時の技術開発から製造の過程において、丁寧すぎるほど丁寧なうえに、速くて力強い人による作業が、コンクリートの構造物の強さになっていました。

そこには、日本人の仕事における倫理観や、オーバースペックになるまで突き詰める町工場のものづくりがあり、その時代の精神性は脈々と現代まで続いている。今も残るコンクリートの船を作った当時の人々の思いが、物語の軸になります。

世の中のルールは「結構簡単に破られる」

ーー物語の舞台は戦時下です。その時代を描く難しさはありましたか。

戦争は、あの船が造られた条件を満たす舞台背景であり、戦争そのものを描こうと思ったわけではありません。いつの時代にも変わらない職業意識や、人から人への思い、愛情、苦しい状況に陥ったときでも希望を持つ、諦めない心を描いています。

ただ、それでも作品を描くうえで戦争は避けて通れない。戦争に対する自分の立ち位置を捉え直さないといけないという感覚は生じました。

僕は戦後の平和教育を受けて育ち、今は広島に住んでいて、戦争や原爆に関する情報は常に入ってきます。そうしたなか、これまで自分の立ち位置を突き詰めて考えてはいなくて、ふわっとしていました。

今も世界中で紛争や戦争が起きていますが、その情報は入っても、どれが正しい情報かわからない。そうなると、自分の考え方や立ち位置が不安定なまま固まらない。

もちろん戦争を起こしてはいけないのは大前提で、それでも巻き込まれる状況に追い込まれたら、武力を持たない、使わないことは正しいのか。その事態にどう対応できるのか。

『コンクリートの船』を描くうえで、戦争を考えざるをえなかったのですが、その最終的な答えはまだ見つかっていません。考えている過程にあります。

次ページ先にあるのは破滅
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