【資産戦略】から見た実需としての不動産選び 多様化した社会で資産価値を最大化するには?

マンションの価値を“長期”で見るか、“短期”で見るか
楠木 不動産を実需資産の投資と考えたときに、結局のところ、マンションの価値とは顧客の認識によって決まると思っています。顧客には時間軸が異なる2つのタイプがある。私はそれを微分積分に例えてみたいと思います。“微分タイプ”は、ある点と点においての価格の変動を好む短期派、“積分タイプ”は、変化の積み重ねによって、相対的に価値の最大化を好む長期派です。そのどちらかによって、そもそも良しとする価値の認識が変わってくるのです。人間の選択は何でもそうだといえます。良しあしは別として、ここで興味深いのは、同じものを見たときに人によって全然違った価値が見えているということなのです。
楠木建氏
鮫島 先生の話を聞いて思ったのは当社が手がけているマンションシリーズ「BRANZ(ブランズ)」が目指すのは、積分タイプ、長期派の求めている価値創造だということです。これまで、渋谷の再開発など街づくりに携わってきた経験から、複合開発だからこそ提供できる価値があると考えており、複合開発の1つとしてマンションが含まれていれば、時間をかけて街全体の魅力が向上するにつれてマンションの価値も向上し、最大化していくと実感しているからです。
楠木 マンション単体ではなく、街づくり全体で見るというのは、より広く空間や時間を取って俯瞰するということですね。マンションの購入を検討する場合、長く安心して住むための場所であるにもかかわらず時に人は、建築家や機能面など近視眼的なところばかりを見てしまうことがあります。そのコストは当然ながら、物件の価格にも反映されています。
鮫島 マンションの機能面の充実は確かに大事なことですが、マンションを購入する際には、将来その街自体の価値が向上していくかどうかが非常に重要な要素だと考えています。時間が経つにつれて物件自体は多少なりとも経年劣化していきますが、街の価値が上がればマンションの価値は同じか、それ以上になるはずだと考えているからです。
鮫島泰洋氏
「住まうほどに価値が高まる」マンションとは?
楠木 どなたもマンションを購入するときは、将来価値が上がることを期待し、考えるでしょう。マンションの価値は市況にも影響されるでしょうが、時間が経つほど価値が最大化していくマンションと、そうでないものがあります。その違いはいったいどこにあるのでしょうか。
鮫島 まず、大前提として品質を保っているかどうか、ということを考える必要があります。昨今、マンションの管理費・修繕積立金が高くなったと話題になっていますが、きちんと大規模修繕を行い、デザイン性や安全性が確保されていれば、時を経てそのマンションの“味わい”が積み重なり、魅力となって価値を増していくのです。
その証拠に、評価の高いビンテージのマンションの多くはしっかりとした管理がされており、そのデザイン性や雰囲気に価値を見いだした住人が集い、また人が引き寄せられていくという流れがあります。だからこそ、ビンテージで価値があるとされるのです。
しっかりとした管理が前提にあって、時を経て個々の味わいが積み重なり、唯一無二の魅力になっていくというのは、マンションのあり方としてとても重要なことだと考えています。
2014年竣工。ビンテージというには新しいが、根強い人気を誇る「ブランズ四番町」。東京都千代田区にあり、かつて武家屋敷が多くあった街の趣をデザインにも取り入れているのだという
楠木 ビンテージマンションは、まさに長期派の典型ですね。加えて、マンションに住まう人たちの美しさが表れた「様式美」のようなものもあるかもしれません。それは住民が住む場所に思い入れを持って住んでいるうちに、住まいそのものの美しさが磨かれる面があるということです。それも相対的に価値が出るものだと思います。
鮫島 街づくりでも同じことが言えますね。私たちが再開発の際に必ずやることがあるのですが、それは、その街がどんな所なのかを体感することなのです。実際に3日間くらいその街に泊まって過ごし、その街の人たちが暮らしているように生活をしてみる。街の人と会話をして、イメージをしっかりつかみ、どう開発すべきか、どうしたら街の魅力を残したまま開発できるのかを、しっかりと考えていきます。
閑静な高級住宅街より、街中を好む共働き世帯や若年層
楠木 なるほど。街づくりとは、どこかほかの街と比較するものではなく、それぞれの街にある、独自の良さを生かすということですね。例えば、渋谷を丸の内のような街にしても違和感がありますし、その逆も同様です。渋谷らしさ、丸の内らしさがそれぞれある。街づくりには一元的な物差しなど存在しませんね。
鮫島 はい。その点から、マンションの立地条件も変わってきているように思います。昔は閑静な高級住宅街に住むことが好まれましたが、今は街中で便利な所も好まれるようになっています。それは世の中の暮らし方が変わったからかもしれません。増加するダブルインカムで忙しい共働き世帯や若年層の多くは、便利な街中に住むことを好みます。便利でスタイリッシュでコンパクトな街がいい。そんな価値観に変わってきているのです。
楠木 その話を私なりに集約すると、“成熟”ということに尽きると思います。日本がそれだけ成熟しているのです。かつては1本の尺度で街が評価されていましたが、今は評価軸も好みも多元化しています。例えば、私の知人で投資ファンドを運営している大金持ちがいますが、先入観で六本木や麻布に住んでいるのかと思いきや、日暮里に住んでいます。「自分に合う街だと思ったから」というのがその理由です。
また私の専門分野である競争戦略の観点から言えば、競争相手との違いのつくり方には2通りあって、1つは「競争相手よりベターであること」、もう1つは「ディファレントなポジションを取ること」です。競争戦略論の出発点は後者にあり、実は現在のような成熟した時代にこそ、いかにディファレントなポジションを取れるのかが重要なのです。
お客様から見れば、成熟した今だからこそオプションが増えたということでもあり、様々な街づくりが進んでいけば、それぞれ違った好みを持ったお客様に、多様なオプションを提供することができるでしょう。
鮫島 そうですね。一方で最近のマンションでは、レジリエンス(強靭性)や環境性能も必要不可欠となっています。特に最近は異常気象や自然災害が増えており、より長く安心・安全に住める住まいが求められています。付加価値というよりも“最低条件”になっていると感じます。
楠木 マンションを資産として考えれば、“マイナスがないこと”は重要ですね。マンションをハードウェアとして捉えると、何も心配しないで暮らせることがいちばんいい。一方で、変化していく街をソフトウェアと捉えれば、人々が暮らしの中で街全体をつくり上げていくというのは、ゼロからプラスをつくっていくことです。つまり、最初からマンションと街全体にマイナスがないということは大きな価値であるといえるでしょう。
「管理の良しあし」が資産価値を左右する
鮫島 マンションは、売買して終わりではなく、実際は人が住んでから、建物をどう維持していくかのほうが重要です。マンションは人が生活をしていく場所であり、きちんと管理されているかどうかで中古市場における価値も大きく変わってくるからです。
BRANZでは、グループ会社である東急コミュニティーに専門の管理チームがあり、特別な管理ができる体制を構築しています(一部物件を除く)。
楠木 その意味で、マンションの購入を考える際、その時に市場に出ているマンション同士を比較するようなことはあまり意味がないですね。むしろ、購入を検討しているマンションに、実際に住んでいる人に話を聞いてみたり、その街の店を利用してみる、あるいは短期賃貸で住んでみるのもいいかもしれません。その街に住んだらどうなるのか、イメージしてみることが大事ですね。
鮫島 マンションは高い買い物であり、誰もが迷うものです。現在は全体的に高品質なものが多く、デザインや性能を比較してもあまり大きな違いはないかもしれません。それであれば、そこに住んでどんな暮らし方ができるのかを考えたほうが、むしろ実感が湧くと思います。
BRANZは「長く安心して住める住まい」としての基本性能を有しているのはもとより、そこに住まう人が豊かな暮らしを送れる仕組みやサービスを提供するべく、日々努めているということは自信を持って言えます。運営・管理を含めて、お客様と一緒に将来にわたって価値を高めていく。それがBRANZの考え方なのです。





