海外M&Aを成功に導く
戦略とリスクマネジメントの実際
戦略シナリオの実行を支える格付け評価の新標準

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講演Ⅱ
これからのM&A業務に求められる分析力

【講演Ⅱ】
小出 周作
S&P Capital IQ
営業部門シニア・ディレクター

S&P Capital IQでは、M&Aを支援するために、候補企業の選定と詳細分析、簡易的な企業価値算定を行うための情報プラットフォームを提供している。このプラットフォームは、グローバルの企業情報や財務情報のほか、株主構成、専門用語による検索などを使った定性的切り口でのスクリーニングが可能。同社の小出周作氏は「元々はM&A専門家向けツールでしたが、最近は事業会社が利用するケースも増えています。専門家への委託を介さずに直接情報を使い分析を行うことで、精度の高い候補選定、機動的戦略立案につながります」と語った。また「買収価格の妥当性の確認はリスク管理のうえでも重要です」として、外部委託で算定した企業価値の結果をうのみにせず、自社でも確認をするクロスチェックの必要を訴えた。

【講演Ⅱ】
樋口 淳
S&P Capital IQ
プロダクト&コンテンツ部門
公認会計士

プラットフォームを利用する事業会社に対してモデル構築支援や実務的なアドバイスを提供している同社の樋口淳氏は「企業価値には過去の実績とともに将来予測も含まれています。算定の際に、どんな仮定条件を用いるかで結果も大きく異なってきます」と指摘。仮定の合理性の確認に留意するように求めた。

ディスカッション
海外M&Aを成功に導く戦略とリスクマネジメントの実際

【パネリスト】
前田 裕久
住友理工
取締役常務執行役員

自動車用防振ゴムで世界トップシェアを誇る住友理工は2013年に欧州・南米などの企業計4社のM&Aを実施した。日系自動車メーカーとの関係強化を図る一方、欧州や新興国に販路を広げ、日系以外のメーカーを顧客に取り込むため、中長期的視点からの経営戦略を実行。だが、買収直後からチュニジアの港湾ストによる物流の混乱、ブラジルのデモやレアル安、ロシアのルーブル暴落などの問題が相次いで発生。信用格付けが引き下げられた。同社は買収先の投資回収が長引くと判断し、のれん一時償却による特損を計上。住友理工本体から、経営幹部を派遣して、現地とのコミュニケーション深化を図ることにより、課題把握と対策実行を迅速化している。同社の前田裕久氏は「どの程度の借り入れなら格付けを維持できるか、限度ラインを見極めて買収しました。想定よりも事業環境が悪化した場合でも2年以内に回復しないと格付け引き下げリスクがあることに留意すべきです」と述べた。

【パネリスト】
長谷部 智一郎
デロイト トーマツ ファイナンシャル アドバイザリー合同会社(DTFA)
シニアヴァイスプレジデント

S&Pの根本氏は、M&Aによるレバレッジ悪化をクリアしたとしても、格付け会社の予想する将来収益を下回ると格下げの可能性があると説明。「事業の分散が収益の安定化につながり格付けが改善した例もあります」とアドバイスした。

【モデレーター】
鈴木 雅幸
東洋経済新報社
編集局次長

DTFAの長谷部智一郎氏は、デューデリジェンス(DD)のポイントについて「買収目的にかなう販路や知的財産などの資産を持っているかという視点と、利益があってもキャッシュが回らず追加出資が必要になる会社もあるので財務構造の理解が必要です」と指摘。ベンチャー企業では「開発リスクもDDで検討すべきです」と述べた。また、「徐々にでもM&A人材はそろえるべきです」と訴え、多岐にわたるM&A業務を学ぶ企業向け勉強会の開催などの支援サービスを紹介した。最後に「本日の話を今後の経営判断に役立てていただければ」とモデレーターがまとめ、フォーラムを閉会した。