企業と地域が育ち合い、継続的な来訪へ繋げる 「企業版第2のふるさとづくりモデル」始動

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観光庁は「何度も地域に通う旅、帰る旅」という新しい旅のスタイルの普及・定着に向け、「第2のふるさとづくりプロジェクト」を推進し着実に成果を上げている。今年度は企業と地域の関係人口化を目指し「企業版第2のふるさとづくりモデル」を展開中だ。事業を推進する同庁観光資源課(当時)の丹下涼氏と、採択された2地域に話を聞いた。

ニーズの高まりを受け企業と地域の関係化に着目

「第2のふるさとづくりプロジェクト」は2022年に本格始動し、昨年は年4回以上の来訪者を10人以上作るという目標を掲げ、モデル実証地域の半数以上で達成する成果を上げている。注目すべきは継続して訪れた人から、「出会った人が非常に魅力的で、その人にまた会いに来て、地域に貢献したいと思い再訪した」という声が多いことだ。

観光庁 観光地域振興部 観光資源課 課長補佐(統括)(当時) 丹下涼
観光庁 観光地域振興部
観光資源課 課長補佐(総括)〈当時〉
丹下 涼

地域の参加者を見ると30代未満が多いのも特徴で、丹下氏は「移動需要をつくり、そこに交流が生まれて消費にもつながることを目指す中で、若い世代がボリューム層になっているのは、われわれも非常に心強く感じている」と話す。

一方で、観光庁ではワーケーションの普及にも取り組んできたが、「ワーケーションに参加した企業からは、もっと継続的にこの地域に関わりたいという人々のニーズを強く感じるようになり、今回、企業と地域の関係人口化をさらに推進するため、『企業版第2のふるさとづくりモデル』を展開することにし、8地域が採択された」と解説する。

双方にメリットがある持続可能な関係づくりへ

募集時、最も留意したのは「来訪した企業と、その後どれだけ関係を深めていけるかというところ」と話す丹下氏。実際、企業が地域と交流を求める需要は増えており、そこに観光市場が参入する余地があり、移動需要にどうつなげていけるかがカギとなる。

また、地域と企業の関係を持続可能とするためには双方のメリットが大事で、「地域と育ち合う、これからの企業のかたち。」という新たなコンセプトも発信している。それらを踏まえて行われた採択に際しては、「持続的に地域のためになる取り組みか」「他の地域へのインパクトや再現性があるのか」という点も重視。「離島の医師不足」や「震災からの復興」「観光資源と人的交流」など、非常に期待値の高い取り組みが採択された。

企業側も地域への貢献とともに、社員の成長や福利厚生の充実などの広がりもある今回の取り組み。丹下氏は「観光庁としても新しい挑戦であり、地域とともに多くの企業に訪れてもらえる魅力をつくっていく」と思いを込める。

石川県 七尾市・輪島市
復興の先の未来につなぎ関係人口から行動人口へ

今回の採択地域の1つ、石川県七尾市・輪島市は、JTB金沢支店とともに「能登半島地震復興ワーケーション(関係人口から行動人口へ)」を推進していく。

同支店の松永憲治氏は地域の課題として「観光業への打撃」「地域経済の低迷」「人口減少と高齢化の加速による復興の担い手不足」を挙げ、加えて「コミュニティー再建」の重要性を指摘する。

このため、企業と地域の持続的な関係を目指すプログラムを造成して販売する事業を計画。その特徴は被災地の視察や対話、復興支援活動への協力といった参加型のアプローチであり、「語り部であるガイドづくりと、そのガイドを通じて復興が学べて未来につながるような、ストーリー性のあるガイドプログラムをいかにつくるかが重要と考えている」と強調する。

復興ワーケーションでの地域交流の様子
過去に実施した復興ワーケーションでの地域交流の様子

また今回は「企業版」ということで、その資金力や実現力によって従来にない復興活動の展開が期待され、事業名に掲げる「復興ワーケーション」についても、その名のとおり地域活性化や地元連携などに力点を置いたイメージで捉えているという。さらに副題にうたっている「関係人口から行動人口へ」についても、地域の復興のために、より深く関わりを持つ人という趣旨だとして、「実際にアクションを起こすことへの地元の期待が『行動』の二文字に込められている」と明快に話す。

本事業に対しては、すでに商社や銀行などから参加の意向が示されているという。松永氏は今後に向け「能登半島地震からの復興は、地域と企業が協力して取り組む課題。復興ワーケーションプログラムは共に学び成長できる機会の提供と考えており、各企業の専門性を生かした参加に期待したい」と呼びかける。

香川県 琴平町
「観光まちづくり」で企業のミライをコトひらく

金刀比羅宮で知られる香川県琴平町では、これまでも「第2のふるさとづくり」で観光需要創出や経済活性化に取り組み、「企業版」でも採択された。事業主体である株式会社地方創生は同町に拠点を置き、事業開発や雇用創出、関係人口創出などに実績がある。

同社の岩田愛菜氏は新たな取り組みについて、「個人と地域の交流ではリピートにつながる例も増えてきましたが、企業との関わりにおいては、関心に合った滞在プランの設計や、地域との橋渡しを担う人材・ノウハウがまだ十分とはいえません。そうした体制を少しずつ整え、企業をしっかり受け入れていける環境をつくっていきたい」と話す。このため今回の採択事業では、「町の歴史やコンパクトさ、人との距離の近さを生かした滞在プログラムの造成」「受け入れ体制の強化と人材育成」「関西をターゲットとしたプロモーションイベントの開催」を3つの柱としている。

コトリ コワーキング&ホステル琴平
滞在交流拠点コトリ コワーキング&ホステル琴平

具体的には、1回目の来訪では地域の視察やキーマンとの交流を中心とし、2回目以降の来訪で実際に取り組みたい事業の橋渡しをしたり、パッケージプランを提案したりして、再来訪を繰り返してもらう想定をしている。「そのため、それぞれの企業のビジョンやニーズをしっかりヒアリングし、地域の課題や資源と結び付けられる人材育成のための勉強会も計画している」とのこと。

前述の関西でのイベントも11月開催をメドに準備を進めており、そうした事前のアプローチから、来訪時には企業と地域をつなぐコーディネート役、さらに来訪後のフォローも含めて伴走する体制を整備。「コトリ コワーキング&ホステル琴平」といった宿泊・交流施設も活用されている。企業に向け岩田氏は「まずは顔の見える関係づくりから始め、肩ひじ張らない町との出合いを用意し、共に未来を開いていきたい」と意欲的だ。