日本ではウクライナ侵攻の現状や中東紛争ばかりに目が行きがちだ。しかし、超大国というおごりがあるロシア(大国主義という点ではトランプ政権でも同じだが)は、歴史的に見ると侵攻する場合、小国という「弱い環」を突いてくる。2008年のジョージア侵攻がその典型例だ。
このため、バルト情勢をもっと日本は注視する必要がある。ウクライナは小国ではなく、軍事力も含め中クラスの国だが、プーチンは旧ソ連のウクライナが欧米志向になり、ロシアの軌道から離れつつあったことが許せなかった。
「平和の配当」の終わり
上記したNATOの対ロ警戒心の高まりは歴史的に何を意味するのか。それは1989年の東西冷戦の終結と1991年末の旧ソ連崩壊の結果、ヨーロッパが過去約30年間享受してきた「平和の配当」時代が最終的に終わったことを意味しているのだ。
「平和の配当」時代とは、冷戦終結により各国が軍事費を削って経済開発・教育などに回してきたことを指す。とくにヨーロッパは国防予算を削って、軍備を最低水準にしてきた経緯がある。
ウクライナ侵攻が起きた直後、英独仏などヨーロッパ有力国の軍備および継戦能力はロシア軍とは比較にならないほどお粗末だった。このショックが今回の防衛費大幅拡大に向けた跳躍台の役目を果たしたともいえる。もちろん、ヨーロッパ諸国は「平和の配当」への決別について、国民を説得するという難しい宿題を抱えている。
今回のNATOサミットでは、ウクライナ和平仲介を進めるトランプの言動にもゼレンスキー政権にとって、前向きな変化の兆しがあった。サミット後の記者会見でトランプが、プーチンとの仲介交渉が「難しい」と弱音とも取れる発言をしたのだ。ゼレンスキー政権からすれば、受け入れ不可能な和平案をアメリカから押し付けられる可能性が当面なさそうだと受け止めている。
キーウが今、軍備で一番必要としているアメリカの高性能防空システムである「パトリオット」の供与について、トランプが「一部を提供できるかどうか検討する」と答えたことも期待感を高める材料だ。
もちろん、気まぐれなトランプのこと、最終的にどうなるかは予断を許さない。
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