「北川景子に凄みが出てきた…」ドラマ《あなたを奪ったその日から》での好演で話題! 人気女優が“誘拐犯役”を必ず通るのはなぜか?
例にあげた2作は、誘拐後に逃亡するロードムービー的なところがあるが、『あなたを奪ったその日から』は逃亡しない。仇のそばにいて虎視眈々と復讐を狙っている。その粘っこさがこの『あなたを奪ったその日から』の妙味である。
女性の繊細な感情を丹念に描くのみならず、主人公の思考や行動がいささかぶっ飛んでいておもしろいのだ。
はじめのうち紘海は周囲を警戒し、ひっそりと生きていた。だが保育園には通わせなくても、小学校に行かせないわけにはいかない。そのためには戸籍が必要になる。

紘海はこれまで出生届を出していなかった理由を無理くりつくり、離婚した夫にも協力を頼み、実母・江身子の唾液を摂取して鑑定をすり抜ける。過去に特殊任務でもやってきたのかと思うほどの実行力。
そもそも誘拐するところからしてとんでもないことで、紘海の行動にはSNSで賛否両論が渦巻いた。しかも繰り返すが、逃亡しないで、仇の傍らで生活を続ける大胆さ。
あくまでフィクション。とんでもない展開であればあるほど、スリルがあっておもしろいと好意的な視聴者もいれば、食品アレルギー問題や幼児誘拐など生々しくて見るのがつらいと敬遠する視聴者もいる。
「北川景子劇場」として見ると面白い
自分の大切なものを奪われたら復讐するのは当然か否かという根源的な問いには、なかなか容易に答えを出せない。だから『あなたを奪ったその日から』は、あくまでも北川景子劇場として楽しみたい。彼女の執念の演技を見ることを主目的にすれば、これほどおもしろいものはないのである。
ドラマの序盤、我が子を失い絶望し、相手の愛娘に手をかけようとするときの北川景子の能面のような表情は、氷の冷たさと業火の熱さを併せ持ったような凄みがあった。

また、誘拐した幼児の歯を磨いてやるときの所作もいい。きわめて事務的な無表情で、心が死んでいるのがひしひしと伝わってくる。それでいて、いままで実子にやっていて慣れているから手際はいいのだ。
そこに漂う、子を失った母親のなんともいえない悲しみは、赤子が亡くなったのに母乳が出るような状態を思わせた。
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