とてもベストな案とは思えない…岸博幸が語る、自公立による拙速な「年金改正法案」の成立に《コウロウ真理教》が奔走した背景

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がんなどの重篤な病気にかかり、病院で高度医療や高価な薬を使った治療を受ける場合、当然ながら治療費は莫大になる。医療保険制度の下では現役世代が病院の窓口で支払う金額(自己負担額)は治療費の3割とはいえ、低所得者にとっては高額な治療費を払い続けることは困難である。

そこで、所得に応じて毎月の治療費の支払い額の上限を定め、低所得者であっても重篤な病気にかかった場合には、費用負担を心配せず安心して高度医療を受けられるようにするのが高額療養費制度である。

僕自身、2023年に多発性骨髄腫という血液のがんに罹患していることが判明したが、それからいまに至るまで高額な治療を受け続けられるのも、この制度のお世話になっているからであり、誰よりもこの制度の重要性は理解しているつもりだ。

しかし、厚労省は、少子化対策の財源の一部を医療費の節約で捻出するため、高額療養費制度で定められている所得ごとの自己負担額の上限を引き上げることにした。そのプロセスは、常軌を逸していると言っても過言ではないくらいに、乱暴なものだった。

まず2023年に閣議決定された「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋」という文書に、それまでに高額療養費制度の見直しについて具体的な議論がされていないにもかかわらず、唐突に「高額療養費制度の在り方について、(中略)見直しの検討を行う」という文言が入った。

そして、2024年11月、石破政権発足後の初回の全世代型社会保障構築会議(第19回)で、委員からは懸念の意見も出されていたのに、厚労省の意を受けていたであろう座長が「高額医療費の見直しについて、速やかに検討に着手」という方針を、これも唐突に決めてしまった。

その方針を受け、厚労省の社会保障審議会(社保審)の部会でのわずか4回の審議によって、具体的な自己負担額の引き上げの内容が決められた。そこでは、実際にこの制度を利用する患者たちの団体の意見を聞くこともなく、総務省の勤労者世帯の家計調査データをもとに議論が行われただけで決められたのである。

厚労省の拙速な決定の背景にあるもの

それではなぜ、厚労省はこのように拙速に高額療養費制度の自己負担額上限の引き上げを決めたのだろうか。

スケジュール的に見れば、おそらく予算編成との関係だろう。少子化対策の財源に使う医療費の予算の節約額を早く確定させ、2025年度予算に反映させるには、3月末までに決める必要があったはずだ。

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