とてもベストな案とは思えない…岸博幸が語る、自公立による拙速な「年金改正法案」の成立に《コウロウ真理教》が奔走した背景
また、かつての民主党政権時に、当時の民主党はまさにこの最低保障年金という構想を打ち出したが、厚労省の官僚のご説明によって完膚なきまでに叩き潰された。それで、立憲民主党も最低保障年金への抜本改革を言い出すことはなくなったのである。
本来、霞が関の省庁、そしてそこで働く官僚の本来の役割としては、政治の側に対して政策の選択肢を公平かつ客観的に示し、そのなかから政治の判断でベストと考える選択肢を選べるようにするべきである。
それなのに、厚労省の官僚は国民よりも自分たちにとってベストと考えられる案を自分たちで決めて、それを世に提示し、官僚が得意とするご説明の能力を駆使して政治家や国民を説得にかかったのだ。
その結果が、立憲民主党による厚労省案の完全復活である。僕は、これこそ「コウロウ真理教」の真骨頂ではないかと思う。
ただ、もちろん厚労省だけを責める気はない。厚労省のご説明にやすやすと納得してしまう側の問題が大きいからだ。
最近は、与野党問わず若手の政治家に真面目で優秀な人が多くなっていると思う。ただ、その多くが、悪く言えば小役人化しているように見受けられる。霞が関の官僚のご説明に対して、官僚が決めた政策の大方針には異議を唱えず、細かい点についてはいろいろと意見を言うのである。
マスメディアの記者、特に省庁の記者会に属する記者に至っては論外である。厚労省の年金改革案の中身を報じた新聞記事を読むと、大半の記事が、厚労省のご説明の内容をそのまま無批判に再現しているだけだった。
残念な現実として、厚労省と比べてご説明を受ける側に社会保障制度に関する知識や情報の量が決定的に少なく、その結果として厚労省のご説明に説き伏せられてしまうことが、「コウロウ真理教」を助長してしまっているのである。
年金だけではない「コウロウ真理教」の跋扈
「コウロウ真理教」の跋扈は年金制度改革だけではない。今年の春に大騒ぎになった高額療養費制度の改悪でもそれが垣間見られた。
日本の医療保険制度は、いまやその持続性に大きな疑義があることはともかくとして、早い段階で国民皆保険制度を実現して今日まで維持してきた点では、世界に誇れる制度と言えるだろう。
そして、高額療養費制度は、医療保険制度のなかでも「命」ともっとも密接にかかわる大事な制度と言える。
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