米不足のフィリピンで選挙を前に備蓄米を放出して半値に、それでも負けたフィリピンの政権与党のケースは自民党の反面教師となるか
マルコス氏は2022年の大統領選で、前任のロドリゴ・ドゥテルテ前大統領の娘のサラ・ドゥテルテ副大統領とタッグを組み圧勝したが、選挙中は「UNITY(団結)」など抽象的なスローガンを掲げるだけで政策がはっきりしないと批判された。唯一ともいえる具体的な公約は「米の価格を1キログラム20ペソにする」だった。
ところが就任後、米の価格は40~60ペソ超で推移し、「公約違反」となじられ続けていた。各種世論調査でマルコス氏の支持率は大統領就任以来、つねにドゥテルテ前大統領を下まわっていた。マルコス氏の業績に対する不満の理由の最上位には物価高が挙げられていた。その象徴が米価格だった。
選挙で不発だった5キロ260円米
マルコス政権は2025年3月11日、前政権の「麻薬撲滅戦争」における超法規的殺人にからみ国際刑事裁判所(ICC)から「人道に対する罪」で逮捕状が出たドゥテルテ前大統領をICCの本拠があるオランダ・ハーグに移送した。いまも人気の高齢な前任者への仕打ちに反発する声が高まり、マルコス氏の支持率はさらに急落した。

その2カ月後の5月12日、6年間の大統領任期の前半を審判する中間選挙が控えていた。政権与党と対立するドゥテルテ派の候補者に前大統領への同情票が集まる気配が強まるなか、マルコス政権は4月23日、20ペソ米を5月2日から販売すると発表した。
与党候補へのテコ入れを狙った切り札とみられたが、思惑は外れた。投票直前の利益誘導にあたる恐れがあるとして、選挙管理委員会が販売を一時差し止めたのだ。
中間選挙の結果は想定以上の与党の負けだった。焦点となった上院議員選では、改選12議席のうち政権が期待した与党による8~9議席の確保はかなわず、5議席にとどまった。前大統領拘束への批判に加え、経済政策、なかでも物価高対策への不満が敗因であった。
選挙後になってようやく日の目を見た20ペソ米だが、「市価の半額以下」の実現は日本と同様、備蓄米の放出に頼った。フィリピンでは、国内需要の10日分にあたる38.5万トンが在庫として備蓄されていた。販売対象は高齢者や障害者、1人親などの12万貧困世帯に絞られ、1世帯あたり30キログラムを上限とした。
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