アブ・シャバブの勢力はまた、支援物資の護衛・分配を通じて、ガザ南部の生活基盤を事実上支配しつつある。2024年末に起きた大規模な支援物資の略奪事件では、ハマスとアブ・シャバブ勢力の双方が互いを非難し合ったが、現地では「どちらも物資を横流しし、自勢力のために使っている」という認識が広がっているようだ。
ガザ住民の生殺与奪権を握るまでに成長
アブ・シャバブは、イスラエルの支援を得て軍事力を強化する一方で、ハマスの弱体化に乗じて支援物資を支配することによって「ガザ住民の生殺与奪権」を握るまでに成長している。このことが、彼らを単なる武装組織から「準支配者」へと押し上げている要因だろう。
しかし、イスラエルとアブ・シャバブの共闘関係が長続きする保証はない。歴史的に見ても、レバノン南部の民兵やシリア内戦の武装勢力など、イスラエルが一時的に支援した勢力が後に敵対化するケースは少なくない。
アブ・シャバブが一定の支配力を得た後、イスラエルと利害が対立し始めれば、彼らは新たな「敵」となる可能性すらある。
また、タラビン族の中にはイスラエルに対して敵対感情が強い若年層も多く、この「協力関係」が長期的に持続可能とは言い難いのが現実である。
ヤセル・アブ・シャバブという存在は、戦争によって破壊された秩序の中で、新たに統治力を拡大しつつある「非国家主体」の象徴と言うことができる。彼らは、イスラエルとハマスの対立という構図の中でうまく立ち振る舞い、自身の勢力を拡大しようと目論んでいる。
彼は現在、自身のSNSを通じて広くボランティアを募っている。行政コミュニティー委員会を設置するために医学、薬学、工学、教育、コンピューター、法律、心理学などの専門知識を持つガザ市民を募集している。
ボランティアは「民族的、道徳的、人道的な観点から」必要だとしている。
だが、それは必ずしも平和や安定を意味しない。戦争勃発から1年8カ月経った今、さまざまな思惑が入り混じるガザの現実において、アブ・シャバブのような存在は「空白を埋める秩序」であると同時に、「次なる混沌の火種」でもある。
イスラエルにとっても、そしてパレスチナ社会にとっても、短期的には有用であっても、中長期的にはガザに新たな権力構造と対立軸を生み出すリスクが大きい。アル・シャバブは諸刃の剣なのである。
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