ヤセル・アブ・シャバブの行動を理解するには、彼の出自であるタラビン族の存在を抜きに語ることはできない。
タラビン族は、エジプトのシナイ半島からイスラエル南部のネゲブ砂漠、さらにガザ南端のラフィアフ周辺に至る地域で暮らすアラブ系ベドウィンの部族である。
密輸経済において大きな影響を及ぼしてきたが、とくにラフィアフの地下トンネルを使った密輸で知られ、武器、燃料、医薬品、人員などをエジプト・ガザ間で運搬してきた。
「利益を生み出すルート」
歴史的に見て、ベドウィンの部族は「利益を生み出すルート」を確保することに長けており、今回アブ・シャバブが部族ネットワークを武力化した基盤でもある。
部族紛争や政府による弾圧もある一方、彼らはつねに柔軟に最も利益のある側と協調することで生き延びてきた。中央政府やハマスの支配に服することなく自律的に行動し、ある種の「独立した経済・武装共同体」として存在している。
こうしたタラビン族の人的・物流ネットワークを背景に、アブ・シャバブの武装勢力は急速に台頭してきた。情報筋によると、武装勢力は約300人で構成されており、そのうち約50人はアブ・シャバブが個人的に募集したという。
残りの250人はパレスチナ自治政府の諜報機関を通じて募集されたと彼らは主張している。実際、メンバーの中には過去にパレスチナ自治政府やエジプトで訓練を受けた元治安要員らがいると見られている。
部族社会においては、武器を持つことこそが統治力の正統性を証明する手段であり、イスラエルの支援はまさにその「力の源泉」だったと言えよう。
一方で、アブ・シャバブ自身はイスラエルからの武器供与を一貫して否定している。「われわれはイスラエルの道具ではない。武器は地元民から提供されたものだ。われわれの活動は、パレスチナ正統政府の指導と調整のもとで行われている」と主張する。
こうした言説は、パレスチナ社会内部で「裏切り者」「イスラエルの傀儡」という烙印が押されるのを避けるためだろう。
アル・シャバブは自身を「パレスチナ人のための治安維持勢力」と位置づけ、将来的にはパレスチナ自治政府と連携し、ハマスに代わる統治主体となることを目指しているように見える。
そのためには、イスラエルと協力しながらも、同時に「パレスチナの独立を目指す勢力」であるという正当性を対外的に演出する必要がある。
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