全国各地のスーパーやドラッグストアでトイレットペーパーやティッシュペーパーなどが品切れになり、政府や業界団体が在庫は十分にあるとデマを打ち消す事態に発展した。
まさに「近いうちにトイレットペーパーが不足する」という予言によって、単純にそれを信じた人々の購買行動だけでなく、予言が人々の購買行動に影響を与えて実際に品不足が引き起こされるかもしれないという恐れが、さらに多くの人々を巻き込む騒動を作り出していったのであった。典型的な「予言の自己成就」といえる。
コロナ禍の非常事態宣言下というストレスフルな状況がデマの温床になったことは間違いない。社会の秩序が不安定なときほど、デマの訴求力が高まる傾向にあるからだ。
7月5日の予言に関連して類似のデマが広がった場合、今後、食料や防災用品の買いだめが起こる可能性はあるだろう。
もちろん、現在はコロナ禍とは大いに状況が異なる。しかし、米価高騰に象徴される終わりの見えない物価高と増税の二重苦は、経済的な非常事態が出来しているといえるのではないだろうか。
そもそも7月5日の予言が流行していること自体が、もとよりこのご時世の不穏な空気を表しており、そこにさらなる“小さな予言”が出現し始めても何の不思議もない。
新たな認知を採用することで、不協和を解消する
もう一つは、心理学者のレオン・フェスティンガーらによる有名な実証研究で明らかになった、予言が当たらなかった後の人々の心境の変化に関するものだ(以下、レオン・フェスティンガー/ヘンリー・W・リーケン/スタンレー・シャクター『予言がはずれるとき この世の破滅を予知した現代のある集団を解明する』水野博介訳、勁草書房)。
同書は、終末思想を掲げる集団の予言が不発に終わった後、どうなったのかという顛末を潜入取材による参与観察に基づきレポートしたもので、結論としては集団の布教活動などが活発になったと結論づけている。
対象となったのは、ドロシー・マーティンというスピリチュアリストの女性が率いる「シーカーズ」という信仰集団だった。
マーティンは、高次の存在から受け取ったメッセージであるとして、1954年12月21日の未明にアメリカやカナダ、ヨーロッパの大半が大洪水に見舞われると予言した。
その際、高次の存在が降臨して救済されるというキリスト教圏にありがちな筋書きになっていた。社会的に大きな注目を集めたものの、その予言は見事に外れた。
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