伊藤忠の「事業撤退を検討する基準」3つとは?グループの”黒字会社比率9割越え”を実現する鉄の掟を解説!

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たとえば伊藤忠商事は以下のようなEXIT基準を対外公表しています。

① 3期累計赤字
② リターンの投資時計画比下方乖離
③ 付加価値の3期累計赤字

同社ではこのうちどれか一つでも抵触した場合には、主管部署で事業を継続すべきか、EXIT(撤退)すべきかを判断するとしています。

三つの基準のうち最後の項目にある付加価値は、「連結貢献-(連結投資簿価×株主資本コスト)」という計算式で表されます。たとえ黒字であっても投資簿価、資本コストとの見合いで付加価値がマイナスであればEXIT検討の対象となりうるというわけです。また、仮に事業継続を選んだ場合にも、連結リターンの改善、連結投資簿価の上昇抑制などの課題をクリアする必要があります。

抵触すれば必ず撤退だというわけではなく、あくまでも事業継続の是非について検討を始めるためのラインとして基準を設定しているのも面白いところです。基準を対外開示することは後々の経営判断にとって大きな制約にもなりますが、形式上の明確なルールを示しつつ、最終判断の余地を残すことで厳格さと柔軟さの絶妙なバランスを取るという、非常にうまい手を使っているといえるでしょう。

同社内では、過去の失敗の二の轍を踏むことのないよう投資失敗事例の教訓を共有する独自研修も実施しています。こうした取り組みの結果、黒字会社比率は2010年度に78.1%でしたが、23年度には92%に向上。黒字会社損益も拡大基調となっています。

日本企業がグローバルな競争力を取り戻すために

テクノロジーの分野はイノベーションのサイクルが速く、一度あるビジネスモデルで圧倒的優位に立つことができたとしても、次の時代の覇権を保てるとは限りません。

マイクロソフトなどアメリカの巨大IT企業が数十年単位で存在感を維持し、領域拡大を続けてきている理由は、稼いだ利益を次世代のコアビジネスに投資してきたからです。マイクロソフトは早期からクラウド事業に注力し、コンサルティングを含めた幅広いサービスとのシナジーを強化して収益の拡大に成功しました。足元ではAI分野にも巨額投資を実施して次の成長の種を蒔いています。

残念ながら日本のソフトウェア関連の企業群を見渡しても、グローバル標準になるようなソフトを開発して成果を上げている会社は一つとして見当たりません。GAFAのように高マージンビジネスモデルを確立して世界を制覇する国内企業はなく次世代の主戦場とされるAI分野でも逆転劇の明確な兆しは見られません。

しかし日本は、最初からイノベーション創出が苦手だったわけではありません。むしろ一昔前までは、国際的な規制環境の変化を読み取り、まだ開拓しきれていない市場のニーズを発掘して、新たな商品を世に送り出すことを得意とする企業が存在していたのです。

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