「月2.5億円の役員報酬は高すぎる」国税の判断に味噌会社が訴え…最高裁に“門前払い”されるも意義を唱える理由
松井さんが特に疑問を呈するのが、国税当局が役員報酬を「地域限定倍半基準」で決めている点だ。
この基準では、まず、その企業の所在で、比較する企業の地域を限定する。その中から同業種のうち、売り上げの2倍〜半分となる「倍半基準」で企業を選定。最後に、それらの企業の役員報酬の平均値を取りまとめる。
裁判開始時に国税当局が示してきた「適正給与支給額」では、2016年の場合、松井さんが844万円で、弟は実働4カ月のみだとして281万となっている。
松井さんはこれに反論する。
「当時、松井味噌グループは金融資産だけでも200億円を持っており、しかも全社無借金経営でした。会社の稼ぎ手は、私と弟だけ。2人で300~400億円を儲けないと、税金を支払ったあとでは残せない金額です。こうした実績と比べると、私の900万円にも満たない金額は低すぎます」
松井さんの自信の背景には、成功物語がある。
松井味噌の3代目社長(松井味噌グループ16代目)として、1990年代から中国・大連に進出。日本より大幅に安い大豆や米、塩などを使い味噌関連製品を作り、1980年代に約2億円だった年商を2017年には200億円まで成長させた。最近では、中国内でウイスキービジネスにも進出している。
さらに松井さんは、味噌屋の「完全なる不況業種」ぶりも付け加えた。かつて130あった兵庫県の味噌屋の数は現在11軒までに減少しているとし、「他の誰もが食えなくなっている中、自分たちはダントツの成果を上げている」と自負した。
「年収2000万円で雇うから同じことやってみて」
地裁、高裁の裁判で、松井さんは弁護士2人と出廷した。一方、国税側は毎回、10人近くの弁護団を組み、さらに傍聴席には国税職員が20人近く見学に来ていたという。
「傍聴席にいたのは、主に20代の若手でした。裁判をしてまで国税と対立するのが珍しく、『勉強に行け』と言われたのでしょうね」
弁護士と相談したうえ、裁判の席で松井さんが国税職員たちに怒りをぶつけたことがあった。居並ぶ若手国税職員に対して「そこにいる20人以上全員を年収2000万円で雇うから、1人でも私と同じことができるならやってみればよい」と呼びかけたのだ。
その裏には、「適正給与支給額」への疑問に加え、税務調査で「経営者として大したことをしていない」と言われたことへの憤りがあった。
また、松井さんは中小企業の経営者の多くが、税務調査への対応に苦慮していることにも言及した。「何らかのお土産がないと帰ってくれない」というのが、仲間の経営者の共通認識になっているという。納得いかなくても、粘られるよりはましと考え、国税に花を持たせるのだ。