舞台公演≪不可解ドタキャン≫頻発の裏事情 ハリー・ポッターから歌舞伎まで、観客への補償はどこまで?

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これら2つのケースは興行主側が自主的に規約を超える補償を行ったものだ。もし裁判になっていれば、重過失があったかどうかが問われ、前者の「出演者の勘違いによる遅刻」、後者の「複雑な演出プランに対応できなかったための稽古不足」は重大な過失に該当する可能性があったように思う。だからこそ、規約の定め以上の対応をしたとも考えられる。

ところで、消費者契約法にいう「故意」による公演の中止などありえるのだろうか。実は、2018年、往年のスター歌手のコンサートが公演当日、「契約上の問題」という理由で開演直前に中止となり、話題になった。実際には観客が少ないことを公演前に知ったその歌手が、自分のプライドが許さないと怒り、出演を拒否したとされている。

故意又は重過失の判断基準とは?

「契約上の問題」とは、歌手本人と興行主の問題(満席にするなどの合意など)であり、観客はその契約に関係ないから、本件は出演者の故意によるものといえるだろう。報道では、チケット代金のみ払い戻されたようだが、裁判などで争えば交通費なども認められたかもしれない。

前述の「ハリー・ポッターと呪いの子」の「公演関係者の体調不良」による中止、坂口健太郎氏の「諸般の事情」によるファンミーティングツアー・クアラルンプール公演の中止は、そのあいまいな表現ゆえに、その正当性を消費者は判断できない。

例えば、出演者の遅刻が原因とすれば重過失と判断できそうだが、体調がすぐれずに起きられなかったといえば、そうではないのか。また、仮に、席が予定より埋まらなかったことが、諸般の事情として中止の理由であるのであれば、それは計画が甘かったということで重過失になるのか、あるいはそうした理由による中止決定自体が故意とみなされるのか。

法的な判断はさておき、こうしたことが続くと舞台芸術そのものあるいは興行主が消費者から信頼を失い、事業の継続が危うくなる可能性がある。エンタメ業界には誠意ある対応を望みたい。

細川 幸一 日本女子大学名誉教授

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ほそかわ こういち / Koichi Hosokawa

専門は消費者政策、企業の社会的責任(CSR)。一橋大学博士(法学)。内閣府消費者委員会委員、埼玉県消費生活審議会会長代行、東京都消費生活対策審議会委員等を歴任。著書に『新版 大学生が知っておきたい 消費生活と法律』、『第2版 大学生が知っておきたい生活のなかの法律』(いずれも慶應義塾大学出版会)等がある。2021年に消費者保護活動の功績により内閣総理大臣表彰。歌舞伎を中心に観劇歴40年。自ら長唄三味線、沖縄三線をたしなむ。

 

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