「内乱」という呪文に支配される韓国大統領選挙、李在明氏の余裕、盛り上がらない政策論争、台湾有事はスルー?
次第に身振りも大きくなり、聴衆を巧みに高揚させていく李在明。暮らし向きの苦しさは尹錫悦の「無知と無関心」ゆえだと断罪し、自分が大統領になれば経済再建は約束されたも同然だとアピールする。
しかしその経済に関して、いや、ほとんどの課題に関して、話の具体性は乏しい。せいぜい、平沢が半導体生産の拠点であることに触れて、AI(人工知能)の開発を政府としても全力で後押しするといった点であった。
無難な公約ばかり
もっとも、AI重視は金文洙も公約に掲げている。大統領選挙の各候補は「10大公約」を発表することが義務づけられているのだが、AIにかぎらず、李在明と金文洙の公約はかなり似ていて、双方とも漠然としている。「災害に強い国づくり」「中小の自営業者への支援」「青年層の生活安定」など、両者とも無難な言葉が並ぶ。

進歩派と保守派の対立が韓政治と社会を深く分断してきたが、国が成熟するにつれて、おのずと左右の間で政策の振れ幅は狭まっていることが見て取れる。
その中で、まだ振れ幅が大きいのは、外交と対北朝鮮政策。「10大公約」をみると、金文洙は10番目に「北の核に勝つ力、核に対する抑止力の強化」を掲げる。
一方、李在明は北朝鮮に関する公約は、なし。この日の演説で、李在明は、尹錫悦政権が戒厳令を出す口実づくりのために北朝鮮領内にドローンを飛ばしたとされる疑惑に触れて「国の安全を脅かした」と強く批判したうえで、北朝鮮との平和を維持する重要性を強調はした。ただ、例えば南北首脳会談への意気込みといった踏み込みは示さなかった。
共に民主党を筆頭とする韓国の進歩派は、北朝鮮との対話や協力を重視することが大きな存在意義なのだが、金正恩(キム・ジョンウン)が「韓国は同じ民族とみなさない。敵性国家」と宣言して統一という目標を放棄して以降、南北対話の糸口はみえていない。李在明としても対北政策は語りたくても語りにくいのであろう。
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