しかし、プーチンは、本当にスターリンのような専制的独裁者なのだろうか。プーチンという人物像を改めて見てみよう。
日本には、木村汎氏によるプーチンに関する3巻本の大著がある。3巻は、それぞれ人間的考察、内政的考察、外交的考察との3つで構成される。これほど詳しいプーチン論は世界中どこにもないだろう。プーチンの人格を知るには、『プーチン 人間的考察』(藤原書店、2015年)がいい。
現在のロシア政治を形作る「プーチノクラシー」
こここでプーチンのあらゆる人格的問題点が分析されている。幼少時代、アパート生活、柔道への接近、KGB(国家保安委員会)と大学、東ドイツでのKGBの活動、サンクト・ペテルブルク(レニングラード)での副市長時代、博士論文、エリツィン政権参加、大統領への出世とその人脈、家族関係、彼のマッチョ的体質などありとあらゆるものが分析されている。

プーチン体制を形作るのが「プーチノクラシー」というもので、それは誰からも見える公式的部分と、見えない非公式的部分から構成され、その核をつくるメンバーは、彼へ忠誠を誓った近親のメンバーだという。
だから側近は、彼と同じ出身地、出身学校、職場といった身内集団から成り立つ。そして、彼の性格は、その生まれ持った体躯の貧相さから来るコンプレックス、貧しい育ちから来るルサンチマン、KGBという陰の部分から来る目立たなさ、だれにも取り入るそつのなさと、まれに見るひとたらしという巧妙さ、優しいようでいて厳しい人扱いから構成されるという。
彼の異常な出世には、ソ連崩壊があったことは間違いない。崩壊後のソ連では、国有財産の私有化をめぐって共産党員が利権をむさぼり、悪辣な資本主義を実践し、一部の人間が巨万の富を得た。いわゆるオリガルヒである。このオリガルヒを使って政治権力を維持したのがエリツィンである。
そのオリガルヒの1人だったベレゾフスキーの推薦で、エリツィンの後継者として大統領になったのがプーチンである。そのベレゾフスキーを追放し、オリガルヒを壊滅に追い込み、主要産業を再度国営化し、そこに身内を登用し、権力を維持したのがプーチン政権であった。
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