AIに代替されない「グローバル人材」の要件とは? ビジネスに求められる英語コミュニケーション

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神田外語大学 特任教授 キャリア教育センター長 柴田真一氏
神田外語大学 特任教授 キャリア教育センター長 柴田 真一
AIの発達により、ビジネスで英語を使う障壁は低くなりつつある。一方で、国内市場の低迷を受けて海外に活路を求める企業も増えている。ビジネスパーソンや企業は、今後英語とどのように向き合えばいいのか。海外でキャリアを積み、現在は英語教育の現場で指導に当たっている柴田真一氏に、グローバル人材の重要性や、AI時代に求められる英語力について話を聞いた。       

――グローバル人材のニーズをどのように捉えていますか。

柴田 ここ数年、大企業を対象にしたアンケート調査をみていると、大半の企業が「グローバル人材が足りない」と回答しているようです。日本は人口減で内需の大幅な成長が期待できない以上、海外に機会を求めるのは当然の戦略といえるのではないでしょうか。国内市場だけで事業を展開する企業も、インバウンドで外国人を受け入れる流れが予想されます。

――AIの登場で、英語の読み書きについてはかなりの部分をツールがサポートしてくれるようになりました。

柴田 確かにAIで海外の記事や論文などを日本語で読むことは容易になりました。ただ、ネット上で取得できるのは公開情報である点に注意が必要です。ビジネスチャンスにつながるのは非公開情報であり、その情報源は多くの場合「人との会話」です。海外の人から情報を直接得ようとするなら英語のコミュニケーションが必須です。ここは現状のAIでは困難です。

音声認識で英語の通訳も簡単にできるという見方もあるでしょう。しかし、仕事で求められる英語力は、単に意味を理解すればいいというものではありません。私は銀行員時代にヨーロッパで長く働きましたが、価値ある情報を得ようとするなら、まずコミュニティーの一員として認めてもらう必要がありました。そのためには自分から情報を提供し、パブでワイワイやって人柄をわかってもらうことも欠かせなかった。加えて、その国の文化や価値観も会話の端々ににじみ出るのでそれらを知ったうえで、結局は信頼関係を築く必要があり、それはAIに代替できません。

もう1つ、外国人人材の問題もあります。グローバル展開するなら優秀な外国人社員の獲得は必須です。また国内産業も人手不足で海外スタッフ頼りになっている現場が少なくありません。外国人人材に活躍してもらいたければ、英語が身近な職場環境にすべきです。

たとえ日本語のわかる外国人を採用したとしても、日本語を母語としている人が多い日本企業の場合、日本語の中でわからない表現があったときに疎外感を感じる、という外国人社員は少なくありません。企業の英語公用語化は賛否両論ありますが、私は大賛成です。

人を動かすパッションを英語で表現できるか

――グローバル人材に求められる英語力とは?

柴田 グローバル人材とは、世界中どこででも働ける人のことです。世界の人と一緒に働くには次の3つのプロセスが必要です。まず、相手の話を聞き、理解すること。次に、聞いたことを分析して(異文化理解を含む)自分の考えをまとめること。そして、考えたことを相手に伝えて「納得してもらう」という流れです。英語はこの3つを実現させるツールで、とりわけ3つ目のプロセスはコツがあります。それはパッションです。ビジネスではロジックが重要ですが、ファクトを並べるだけでは人は動きません。ところが、腹落ちしてもらうための熱意を英語で表現するのは難しい。実際、私が英国で仕事をしているとき、私自身も含め、コミュニケーションの問題で実力を6割程度にしか評価されないこともありました。私がビジネスから教育の世界に身を転じたのも、日本人が英語で仕事をする力を向上させて実力を正当に評価されてほしい、という悔しさが根底にありました。

英語上達の近道は4技能を結び付けること

――英語のコミュニケーション力を磨くには何を意識すればいいでしょうか。

柴田 文法や発音を気にして話し出せないという人もいますが、英語を母語としない人同士が英語で話す機会も増えています。少々の間違いは気にせずトライすること自体も情熱を表現する方法だと思います。ある私の知り合いはシリコンバレーに赴任したものの、なかなか発音に自信が持てず、その悩みを大学の先生に相談したら「その発音はあなたのアイデンティティ」と言われ、以降は自信を持って話せるようになったとか。

技術的な話をするならば「情熱を伝える」ためにはまずその内容を英語で書ける力が必要であり、書く力を身に付けるには読む力が欠かせません。聞く力も同様です。例えば映画のセリフも、読んで理解できないものは聞き取れません。「読む」「書く」「聞く」「話す」の4技能を関連付けて学ぶと効果的です。例えばリーディングも目で追うだけではなく音読して耳と口を使うなどして、4技能をなるべく一緒にやることを意識してください。

企業は英語で働く機会を社員に提供せよ

――おすすめの学習法があれば教えてください。

柴田 仕事ですでに英語を使う機会があるなら、実戦でどんどん使って経験を積むことが一番の近道です。英語を使う場がないなら、自分の好きな分野で英語を学習してはどうでしょうか。例えば料理が好きなら英語の料理動画がおすすめです。料理や食文化は外国人との雑談でもいい話題になります。子育て中なら英語の子ども番組を見て、お子さんに話しかけてみるのもいい。仕事でもプライベートでも、身近なところから学習することが大切です。

――企業は社員の英語学習をどのように支援すればいいでしょうか。

柴田 研修や金銭的な支援は重要ですが、それ以上に大切なのは、実際に英語を使って仕事をする場を用意することでしょう。例えば「わが社は英語でコミュニケーションできる社員が大勢いる」ことも1つアピールにはなるでしょうが経営者や人事部の自己満足とならないように。英語の学びを促すだけでは、社員はいずれモチベーションを保てなくなります。「ある一定のレベルに達したら海外プロジェクトにアサインする」など、実際に英語で活躍できる環境を与えてこそ社員は意欲的に学びます。業務と結び付けた形で社員を支援してあげて、真のグローバル人材が育てば、新たなビジネスチャンスも期待できると思います。