AI時代に欠かせない「ビジネス英語能力」とは? 科学的根拠に基づく英語力評価指標の重要性

ビジネス環境がグローバル化し、企業においては従業員の英語力が今まで以上に重要視される基礎スキルとなりつつある。
そうした中で、英語力をどのように伸ばし、競争力につなげていけばいいのか。ビジネスコミュニケーションにおける英語力を測定するために1万5000以上の組織に採用されているTOEIC®︎ Programを制作・運営するETSのグローバルモビリティソリューションズ、シニアバイスプレジデントのRohit Sharma氏とETSのインスティテューショナルプロダクツ、グローバル・ゼネラルマネジャーのRatnesh Jha氏にそのポイントを聞いた。
日本企業の持続的な成長のために磨くべきは
ビジネスの場面で生きる「英語力」
—— グローバル化によるビジネス環境の大きな変化について、どのような課題感をお持ちですか。
Rohit Sharma氏(以下、シャルマ) 世界的に労働のあり方そのものが変化しています。IT技術の進化によりリモートワークが当たり前になり、単発で仕事を請け負うギグワーカーなども増えています。プログラミングスキルなどがここ十数年のうちに普及が進んだように、必要なビジネススキルも変化しています。そうした中で今後、日本企業は海外企業とのパートナーシップを含め、国境を越えてさまざまな人と一緒に仕事をする機会がますます増えるでしょう。
日本企業を取り巻く環境を見ると、少子高齢化に起因する人材不足から、外国人労働者の受け入れも増えると考えられ、国際人材を登用したり、自社の英語力自体を向上させていく必要があるでしょう。
—— 日本の英語力をどのように見ていますか?
シャルマ 一般的に、先進国では英語を「話す・書く」といった「プロダクティブスキル」が高い傾向にあります。日本も世界から見て、技術大国として成長してきたイメージがあり、確かにTOEIC Programの統計結果から「レセプティブスキル(聞く・読む)」は一定のレベルに達している人も多いです。しかし日本のプロダクティブスキルについては世界の中では、残念ながら低い傾向にあると思います。

Rohit Sharma(ロヒット・シャルマ)氏
25を超える国・地域でビジネスに携わったほか、大手コンサルティング会社に勤務した経験も持ち、TOEFL®による国際的なモビリティ、およびTOEIC® Programによる経済的・職業的モビリティを実現するビジネスユニットを監督
—— 日本企業はどのような取り組みを進めるべきでしょうか。
シャルマ 日本企業は、プロダクティブスキル(話す・書く)を高めることにより、世界でもっと活躍できるポテンシャルを持っていると思います。今後、日本企業がグローバル人材の獲得を進めていくうえで重要なのは、海外スタッフに日本語の習得を求めるだけではなく、日本のスタッフの英語によるコミュニケーション力も強化することです。これにより、グローバル人材と文化の垣根を越えて自社のビジネスを推進していくことができるでしょう。
また、会社としてどれだけグローバルレベルの強みを持っていても、グローバルに通用するコミュニケーション力が充実していなければ、その強みを生かしきれないこともあるでしょう。日本企業がビジネス英語力を充実させることで、今まで以上に自社の強みを世界で発揮できるのではないでしょうか。
—— 一方、AIなどのテクノロジーが発達することによって、言語の壁は低くなるという声もあります。英語力向上は必要でしょうか。
シャルマ AIはポジティブな面もあれば、リスクもあります。AI時代になればむしろ、正しい情報にアクセスできる英語のスキルが重要になります。
かつて日本企業では、これらを担うのは国際部や法務部といった一部の部門でしたが、今では、さまざまな事業部門で英語のコミュニケーション能力を持つ人材が求められています。組織としてスピード感を持って英語でビジネスを遂行できる人材を育てることが重要です。
先に触れたとおり、人材不足の中、英語を母国語としない外国人スタッフの採用も加速するでしょう。そのようなビジネス環境では人材育成や適切な人材配置などにTOEIC Programのような世界共通の言語指標が役立つでしょう。
AI時代ならではの
英語教育のエコシステムを構築する
—— TOEIC Programはどのように開発されているのでしょうか。
Ratnesh Jha氏(以下、ジャー) テスト、教育、リサーチに関するETSのエキスパートが集結し、科学的な根拠を基に開発しています。
私たちETSは2500人以上のスタッフを擁し、そのうち約1100人は、教育学、心理学、統計学、心理測定、コンピューターサイエンス、社会学、人文科学の各分野の専門家です。1979年12月の第1回試験実施以降、長年にわたりデータを蓄積し、ビジネス環境で生きる実践的な英語コミュニケーション能力を測定するために、試験設計と評価システムを改良してきました。
—— ビジネスの現場でのAIの活用が注目されています。TOEIC Programでは、AIは活用していますか。
ジャー すでにAIの活用に向けて積極的な検討を進めている状況です。しかし、単にAIを取り入れることを優先しているわけではなく、適切なシーンでAIを取り入れていくことを重視しています。例えば「TOEIC Speaking & Writing Tests」(以下、TOEIC S&W)はコンピューターで実施されますが、最終的には人間がモニタリングするという方法で解答データを評価しています。
なぜ、このような評価形式を採っているかというと、TOEIC S&Wは日常生活やグローバルビジネスにおける効果的な英語コミュニケーション能力を測定することを主眼にしているからです。
それはどういうことかというと、グローバルな環境で話される英語は必ずしもネイティブの英語だけではないということです。さまざまな背景特性を帯びた英語を公平に評価する場合、文法や単語の正誤だけではなく、「相手からの問いかけや要求に対して、論理的で場面に即した伝わりやすい英語で応えているかどうか」を評価する視点も重要です。ゆえにTOEIC S&Wにおいては、少なくとも現時点では人間のレーターたちが採点に関わる必要があるのです。
このように採点方法に細心の注意を払うことも、TOEIC Programの公平性・信頼性・妥当性の維持を担う大切な要素の1つになっています。
さらに今後は、採点の迅速化や問題の作成などでもAIを活用する予定で、準備を進めています。

Ratnesh Jha(ラトニッシュ・ジャー )氏
過去に著名な教育系の企業でCEOを務めた経験を生かし、TOEIC® Program、TOEFL ITP®などを主とした、ETSの団体向けの言語製品ポートフォリオのグローバル展開の責任者
—— 日本企業の英語力向上にTOEIC Programは、どのように貢献していく考えですか。
ジャー 今後もビジネスコミュニケーションにおける英語力のブレない評価軸として、リサーチ、データに基づいた妥当性・信頼性・公平性の高い試験の開発・提供を続けていきます。それだけではなく、私たちが目指しているのは、英語教育のエコシステムを構築することです。
すでに公式教材・問題集、公式教材アプリ、公式eラーニングなどを提供していますが、今後はさらにこれらのコンテンツを拡充していきます。将来的にはAIを活用し、学習者一人ひとりへの学習プランのアドバイスなどもできればと考えています。中でもグローバル環境での競争力を向上するために、業務スキルとしての英語力、とりわけ発信力(プロダクティブスキル)の支援強化も重要なポイントです。高品質のテストという長年培ってきた知見をベースに、英語教育・学習の好循環が生まれる学習サイクルを実現していきたいと考えています。
⇒ETSが制作・運営するTOEIC Programの詳細はこちら