セミナーレポート

オムニチャネル、RFID、デジタルプラットフォームの最新事例 ─ファッション産業(アパレル・靴・鞄他)業界編─

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片山優臣
野村不動産 常務執行役員
都市開発事業本部 副本部長
IoT(モノのインターネット)、オムニチャネル・リテイリングなど進化するITを生かした高度なオペレーションを紹介するセミナー「IoT時代のアパレル・消費財産業のオペレーション戦略」が9月、東京・中央区で開かれた。冒頭で、物流施設開発を進める野村不動産 常務執行役員の片山優臣氏が「近年の急速な物流の高度化の流れを受け、配送マネジメントなども含めた最適機能を提供できる施設を皆さんと実現したい」とあいさつ。会場を埋めたアパレル業界関係者ら約200人が、物流や統合オペレーションの最新事例、それを支えるサービスに耳を傾けた。
●共催:野村総合研究所、東洋経済新報社 ●協賛:野村不動産

【基調講演】
進展するアパレル消費財産業における第4次産業革命

藤野直明
野村総合研究所 主席研究員

ドイツが進めるインダストリー4.0(第4次産業革命)は、IoTなどで取得したデータを使い、現実世界をサイバー空間に転写、構築したシミュレーションモデルを使って業務運用を行うCPS(サイバー・フィジカル・システム)をベースに産業の自動化を図る方策。製品の企画・開発・設計のほか、生産ラインの設計・シミュレーション・改善活動など、産業活動全体をカバーする広範な領域が対象になる。野村総研の藤野直明氏は「インダストリー4.0は、ITに匠のノウハウを埋め込み、ブラックボックス化し、新興国を含むグローバルな国際分業による高速の事業展開戦略、いわばグローバルオペレーションの先進国産業モデルで、主に自動車関連産業を中心に最近、注目が高まっています。しかし、実はアパレル業界におけるIoTは随分以前から海外では現実です」と指摘した。

欧州のファッションブランド企業A社は、販売計画の修正をインプットすれば、どこの縫製工場に何を作らせれば最適に生産できるかを瞬時に再計算するスケジューリングシステムを核に、最短でデザインから2週間で世界中の店舗へ商品供給する体制を構築した。また、商品の企画開発・設計領域における3Dシミュレーションの活用は、実物サンプルで商品仕様を確認する手間を減らし、市場投入までの期間の大幅圧縮を可能とした。

香港の商社が構築しオープン化したITプラットフォームは、世界40カ国、2万3000の縫製、雑貨製造などの工場を結んで、素材調達、商品開発、生産能力予約、計画、発注、調達、生産・物流の進捗管理などから、工場のコンプライアンス管理もできる。また、原材料(たとえばボタンや裏地)の色や質など商品情報を伝えるための標準化もすでに確立している。

国境や企業の枠を越えた業務の仕組みを紹介した藤野氏は「すべて自前業務でなくとも優れたプラットフォームがすでにサービスとして提供されています。ファッション感覚に優れた若手起業家にとっては良い時代が到来したと言えるでしょう」と語った。

【事例講演】
ユナイテッドアローズが取り組む
オムニチャネル戦略とITイノベーションへの挑戦

高田賢二
ユナイテッドアローズ 執行役員
事業支援本部本部長兼情報システム部部長

ユナイテッドアローズは、2年前にECでの購買比率の高まりを受け、経営方針の一つに、オンライン店舗とオフライン実店舗が連携する「O2Oリーディングカンパニーへのチャレンジ」を掲げた。同社の高田賢二氏は「ECの比率は今後も増えることは間違いありません。実店舗は、ECとの間で、物流在庫情報共有を含めた連携を強化する必要があります」と考えている。

実店舗とECの連携では、ECサイトで気になった商品の店舗別在庫状況が一目でわかる機能を設け、ECから店舗へ誘導する一方、店頭で購入を迷った顧客には、ECサイトでの検索が容易にできるように商品番号を伝えるなど、相互送客に取り組んでいる。また、ECの弱点であるサイズのわかりにくさを補うため、過去に購入した商品と、検討中の商品のサイズの比較を示すオンラインフィッティング機能も提供。高田氏は「オムニチャネル戦略は、ECサイトをいかに際立たせるか、がポイントです。商品の品揃えやコーディネート提案も強化したい」と、サイトの一層の充実を図る。

同社ECの最大の課題は、お客様からの再入荷リクエスト増加による販売機会ロスだった。そこで、店舗物流センターと各ECモールで別々に行っていた従来の在庫管理を見直し、一元化に取り組んだ。各モールの在庫量を抑制して、センターに集約。注文に対して不足した在庫は、センターから各モールに補充する方式に改めた。高田氏は「センター在庫がなくなれば、店舗から滞留在庫をECに回す仕組みも構築したことで、かなりの効果が上がりました」と手応えを語る。

また、商品タグに埋め込んだICチップに情報を通信で読み書きするRFIDを導入。入出荷や棚卸し、レジの業務を効率化して、店舗の生産性向上、接客時間の最大化も目指している。高田氏は「デジタルな時代、そしてどんなにテクノロジーが進化しても、人と人の直接的なタッチポイントは非常に重要なコミュニケーションであり、店頭こそ究極的なエンゲージメントと考えています」と、店舗接客がECを含む全社の基本にあることを強調した。

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