卵の高騰で注目される「液卵」の大いなるメリット 家で作るだし巻きが“店の味”にグレードアップ
また、愛知県は最大手のキユーピーをはじめ、三州食品やイフジ産業など液卵のメーカーがしのぎを削る激戦地であり、丸鳥鶏卵は参入する余地もなかった。
そんな中、3代目の社長、白井宏昌さんが液卵に着目し、2020年に液卵業界で初めてとなる冷凍液卵パック食品「楽ちん たまご」を発売し、現在は1日32トンを生産している。
「25年前にヨーロッパへ視察に行ったとき、家庭用の液卵がチルドで売られていたんです。しかも、賞味期限は1カ月でした。パック卵にいたっては2カ月と表記されているものもありました。海外では日本のように生食の習慣がないためですが、冷凍して長期保存することができれば家庭でも普及するのではないかと思ったんです」(白井さん)

液卵を製造する際、加熱してサルモネラ菌を殺菌する工程は避けて通ることはできない。日本の場合、60℃で3.5分保持が基準になっているが、アメリカの場合は62℃で3.5分、ヨーロッパは65℃で3.5分と国によってさまざま。
丸鳥鶏卵では、さらに安全性を求めて、65〜66℃、3.5分保持で連続殺菌している。サルモネラ菌は存在せず、一般生菌数も限りなく無菌に近づけている。加熱すると卵本来の風味が飛んでしまうデメリットもあったが、風味を維持したまま液化する技術を開発することに成功し、2015年には特許も取得した。
家族が食べていたハウス「フルーチェ」が開発のカギに
その頃、高齢者介護施設から茶碗蒸しを作りたいという相談を受けた。ところが、液卵1に対して、だし汁3の割合で加熱しても部分的に固まりはしたものの、だし汁が濁っただけだった。同様に、日清の「チキンラーメン」に液卵をかけて、その上から熱湯を注いでみると、やはりお湯が濁るだけで卵は固まらない。どうすればきれいな卵とじになるのか試行錯誤を重ねた。
「ある日、家族がハウスの『フルーチェ』を食べていたんです。フルーチェが固まるのは、食物繊維のペクチンと牛乳のカルシウムが反応するからです。これだ!と思い、液卵にペクチンとカルシウムを配合したところ、きれいに固まりました。カルシウムを加えることでより栄養価も高くなり、『楽ちん たまご』の製造、販売にこぎ着けることができました」(白井さん)

「楽ちん たまご」は1個100グラム。Mサイズの卵約2個分で使いやすく、こしてあるため料理の仕上がりも口当たりがなめらかになる。生ゴミを減らすこともできるし、何よりも冷凍なので賞味期限が2年間と長い。1人暮らしなどで卵を買っても食べきれずに賞味期限が来て、捨ててしまうこともなくなる。メリットばかりのように思えるが、スーパーのバイヤーたちは難色を示した。
液卵に馴染みがなかったのも理由だが、いちばんの理由は価格。殻付きの卵は1パック10個入りで300円以内だが、「楽ちん たまご」は1袋100グラム×3個入り、つまり卵約6個分で250円(丸鳥鶏卵の通販価格)と、どうしても割高になるからだ。
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